お金をかけるだけでは不十分
真に子どものためになる体験とは

 今井氏によれば、子どもたちにとって有意義な体験が不足しているのは決して低所得家庭だけではないという。

「体験を『子どもが自分で頭を使って考える機会』という意味で捉えるのであれば、例えば親がなんでも先回りして子どものためにやってしまったりすると子どもが自らチャレンジし、失敗するという経験を奪ってしまうリスクもあります。親がこうした態度で子どもと接するのであれば、日々の生活の中で体験の機会が失われてしまうことになります」

 あらゆる商品やサービス、経験がお金で交換できる時代にはなったが、必ずしもお金ですべてが解決されるわけではない。お金を十分に持っていても、子どもが生活の中で「体験」できる機会を親が奪っているのであれば、子どものためにはならないだろう。

 それでは、本当に子どものためになる体験を与えるために、親は何をすべきなのだろうか。

「まず、この社会で生きる大人たちには『私の子ども』だけでなく、『すべての子ども』に体験の機会を届けることを考えてほしいと思います。その上で大事なのは、大人が子どものためになると思ったものを受け身で経験させるのではなく、子どもが自らやりたいことを見つけることです。子ども自身の意志で挑戦し、その中で夢中になれるものや好きなものを選択する。周りの大人に求められるのは、そのプロセスをサポートする役割です」

 今井氏によれば、その活動自体に、子どもの体験を学びに落としていくプロセスがあるかどうかも重要なのだという。

「何かをただ体験すればいいのではなく、やったことを自分で振り返る機会を持てるかどうかも重要です。その体験を通して『自然の美しさに感動した』など何らかの感情が芽生えたり、『自分はこういうことが好きだ』という気づきがあったり、上手くできなかったから次はこうしてみよう、などの新しい発見が得られる。そして初めて子どもにとって価値のある経験になります。このように体験を通して新しい発見や次につながるサイクルがあるかどうかが重要です」

 親が、良かれと思って一方的に学びや体験の機会を押し付けるのであれば、たくさんのお金をかけたとしても子どもにとっては有益な経験になりにくい。誰にとっても限られた資産であるお金と時間を、子どもにとって本当に価値のある経験のために使うのが、親の務めなのかもしれない。