ちなみに、私が苦手だった打者はたくさんいる。代表格は、落合博満さんとイチローくんだ。2人ともスイングスピードが速くて、「対応力」が優れていたという印象が強い。
落合さんとは西武ライオンズ時代に何十回も対戦した。落合さんがロッテオリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)で三冠王を3度獲得した全盛期の頃だ。当時の私は20代前半で、スピードも含めて一番力があったから、こちらもある意味、全盛期と言っていい。しかし、5割近く打たれた。
落合さんに打たれるときは吸い込まれる感じがした。ある試合、インサイド低めの球を打ってきて、バットが折れたような音がした。あっと思った瞬間、レフトスタンド中段に突き刺さっていた。
落合さんは、コントロールの悪い右投手が苦手で、コントロールのいい投手は左右どちらも苦にしなかった印象がある。おそらくデッドボールがとにかく嫌だったのだろう。だから、右打者の自分に対して球が入ってくる私のような左投手は、そもそも得意だったのかもしれない。私の投球フォームも、落合さんにはタイミングが取りやすかったと思う。
足が速いイチローは
普通の内野ゴロもヒットに
落合さんとの対戦は「力勝負」だった。当時の私は捕手の伊東勤さんのサイン通りに力いっぱい投げることしかできなかった。30歳過ぎて自分でデータを取って分析して、きちんと配球を考えるようになってからは、残念ながら対戦していない。
イチローくんは足が速いから、普通の内野ゴロが内野安打になるということもあった。とにかく「どんな球でもバットに当てる」という技術が非常に高かった。
ある日の試合、インサイドのカットボールをイチローくんに対して初めて投げて見逃し三振を奪った。その1カ月ほど後に同じ球を投げたら、バットがピュッと出てきて、ライト線に痛烈なツーベースを打たれた。「この球はもう通用しないな、もう投げる球がないな」と、本当に困ったことを覚えている。
イチローくんは一度見た球なら、瞬時に頭の中でその軌道をはっきりイメージできるのだろう。優れたバットコントロールに加え、それも彼の対応力の源かもしれない。
打者の得意なコースに
あえて投げる理由
9分割のコース別の打率は、野球中継を見ているファンには、その打者がどのコースが打てて、どのコースが打てないのかがわかるデータに思えるだろう。しかし、どういう投手のどういう球種をどういうカウントで打っているのかが合わせてわからないと、本当は参考にしにくいデータなのだ。
たとえば、4割打っているコースでも6割は打てていないのだから、そこは「投げたら必ず打たれる」コースではない。