
通算224勝を積み上げ、現役と監督時代を通して16回の日本一を誇る工藤公康氏。優勝請負人である工藤氏が、嫌いな「2文字の言葉」とは?野球中継での解説者の役割にもモノ申す。※本稿は、工藤公康『数字じゃ、野球はわからない』(朝日新書)の一部を抜粋・編集したものです。
優勝請負人・工藤公康が
嫌いな「2文字の言葉」とは?
野球には「メンタルが削られる」状況がある。
たとえば、投手なら守備陣がイージーミスのエラーをしたとき。投手本人は次のバッターを抑えることに集中しているつもりでも、普段に比べて集中力が欠けた心理状態になりがちだ。そこから連打やフォアボールが出て2点、3点と取られたりすると、投手はいわばメンタルのスタミナが削られていき、さらに集中力を失っていく。
これは野手にも言えることだ。そういうゲーム展開で守備の時間が長くなると、体力よりもメンタルが削られる。それで集中力が低下してエラーしやすくなったり、バッティングに悪影響が出たりする。
こうしたエラーやフォアボールが重なった場面で、よく野球中継では「流れが悪いですね」と言ったりするが、私は「流れ」という言葉が好きではない。そもそも流れが何を意味しているのか、曖昧すぎるからだ。
「悪い流れを断ち切りました」「いい流れが来ています」「流れが変わりますよ」など、そんなふうに言われても、わかったようでわからない。今のエラーで流れが悪くなった。今のホームランで流れがよくなった。しかし、試合はそのワンプレーで負けるわけでも勝つわけでもない。
「流れを言い換えると何ですか?」と聞くと「チームのムード」と答える人もいる。しかし、試合中にチームのムードがいいのか、悪いのか、外から見てわかるものではない。そうなると、流れがいいとも悪いとも言えないはずだ。あるいは、エラーもフォアボールもまったく気にしない明るいムードのチームなら、ずっといい流れのチームということになる。
ファンが知らない情報を
伝えてこそ野球解説者
もちろん、ベンチにいる監督やコーチは「ミスがあったから雰囲気が悪い」「ミスを取り返そうと打ち急いでいる」といった選手たちのメンタルの部分の変化がわかるし、悪ければ、それを立て直そうとする。