さらに言えば、打った投手の球種やカウント、そのときのシチュエーションによって組み立てられたそのコースのさまざまな配球の打率が4割あるということである。その裏側には、打てなかった投手の球種やカウント、シチュエーションなど、そのコースで打ち取られた配球が6割ある。だから投手は4割打っているコースにも、打てなかった6割の投手に共通する球種や配球のデータなどを参考にして投げるのである。

 本来的には、4割も打っているコースはその打者の得意なコース、つまり、特に意識しなくてもタイミングよくバットが出てくるコースだ。しかし、打てなかったときには、「タイミングの取り方が遅かったのかな」などと意識し始め、タイミングを早めに取ろうとする。それでも打てなかったら、「こうバットを出してみよう」などと、より強く意識するようになる。

 特定のコースへの意識が強くなればなるほど、スイングのかたちが崩れて、それ以外のコースの球が打てなくなっていく。これはどの打者にも起こる現象だ。

 よく「バッティングを崩す」と言うが、特定のコースや球種を意識させて、それ以外のコースを打てないようにするというのが、投手としては最もオーソドックスな打者の崩し方と言える。

 野球中継を見ていて、9分割のコース別打率の中で、投手が打率の高いコースに何度も投げていたら、そういう崩しの意図がバッテリーにあると理解してほしい。

手にダメージを受けるため
打者は詰まるのを嫌がる

 私も現役時代、打者のタイミングが「遅れているな」「合っていないな」と感じたら、たとえ得意なコースや球種であっても、同じ球を3、4球続けることがよくあった。続けすぎて痛い思いをしたこともあるが、打者のバッティングを崩すという意味では、かなり有効な配球であることは間違いない。

 とりわけ打者が意識しやすい球として、打ちにいって「詰まった球」というのが挙げられる。たとえば、自分の得意なコースにきた球を「とらえた」と思ったのに詰まって凡打になったというケースだ。

 加えて、打者には「詰まり病」というのがある。打つタイミングが遅れてバットの根もとのほうに当たると、手が痛いだけではない。右打者であれば、右の親指の付け根の少し内側の部分に血行障害のような症状が起こる。症状が酷ければ手術しないといけなくなる。