詰まったことで手首を故障するケースもある。また、よく「肘から落ちた」と言うように、肘にビーンと痛みが走ることもある。そうすると守備のときの送球にも支障が出る。
その意味でも、打者は詰まることを嫌がる。詰まりたくないと思うと、特にインコースの球に対してタイミングを取るのが早くなり、体の開きも早くなる。そのために、アウトコースの球にまったく手が出なくなるという打者がわりと多くいる。
究極的に言うと、打者はタイミングが合わないと打てない。もちろん、バットに当たらないという意味ではない。タイミングが合うポイントにはある程度の幅がある。ポイントの前ならバットの先に当たり、いわゆる引っかけた打球になる。ポイントの後ろなら詰まった打球になる。いずれも球に十分な力が伝わらず、遠くに飛ぶ強い打球にはならないからホームランや長打にはならない。
「配球」とは打者の
タイミングをずらすことにあり
つまり投手は、打者がタイミングを合わせられないだろうという球種やコースの組み合わせで常に投げている。ごく簡単に言えば、それが配球だ。たとえば、インコースを見せてからアウトコースで勝負する。カーブを見せてからストレートで勝負する。インコースのストレートを詰まらせてファールを打たせておいて、フォークで勝負するという具合に。
『数字じゃ、野球はわからない』（朝日新書）工藤公康 著
配球では当然、打者がどの球種を一番嫌がっているかを見極めることが重要だ。フォークのような落ちる球が苦手な打者もいれば、カーブが苦手、スライダーが苦手、カットが苦手な打者もいる。打者にとって苦手な球種は、タイミングが合わない球種と言える。
打者の苦手な球種をデータとして持っていれば、「困ったらあの球種でいこう。打たれても先っぽかどん詰まりで、ファールかボテボテのゴロだろうから」と、配球はぐっと楽になる。もちろん、打球が飛ばなくてもボテボテのゴロでも、ポテンヒットや内野安打になる可能性はあるのだが。
野球中継を見ている一般的なファンが、打者のタイミングが合っているかどうかを見分けるのは難しいだろう。ただ、プロ野球OBの解説者の中には「まっすぐに結構遅れていますね」とか「抜けた変化球のほうがタイミングが合いそうですよね」など、打者のタイミングに関してコメントをする人も多い。
こうした解説を参考にすると、ファンは「高めにいったら危ないんじゃないか」という見方ができ、これまで以上にハラハラドキドキできるかもしれない。
