投手と打者の勝負における「配球」はどうやって決まるのか?ひと昔前ならば、「困ったら外角低め」という言説があったが、今はそうではない。現役と監督時代を通して16回の日本一を誇り、データと現場を知り尽くした“優勝請負人”工藤公康氏が、「次の一球」の根拠を解説する。※本稿は、工藤公康『数字じゃ、野球はわからない』(朝日新書)の一部を抜粋・編集したものです。
打者と投手の調子や状況や
相性によって配球は変わる

最近は野球中継で、打者だと9分割のコース別の打率、投手だと対右打者・左打者別の被打率、投げる球種の割合など、いろいろなデータが表示されるようになった。
9分割のコース別の打率を見て、捕手の構える位置を見て「あー、そこに投げたら打たれるのに」などと歯痒い思いで投球を見守っているファンもいるだろう。しかし、投手対打者の勝負はそれほど単純ではない。配球はシチュエーションや打者と投手の調子、相性などによって変わるものだから、いわばバリエーションが無限にある。
たとえば、1アウト走者一塁で右投手対左打者、走者の足が速い場合、基本的にバッテリーは「引っ張られて一・二塁間を抜けると嫌だな」と考える。ライト前ヒットで三塁に走者が進む可能性が高いからだ。すると、アウトコースの打率が高い打者であっても、捕手は引っ張りにくい外に構える。こういうシチュエーションであれば、野球に詳しい人は「そこに投げちゃダメだ」などとは思わないはずだ。
また、同じアウトコースでもストレートか変化球かという選択もある。変化球はストレートよりも引っ張りやすく、左打者なら右方向に打球が飛びやすい。それでもバッテリーが変化球を選ぶのは、「変化球を引っ張ってくれたらファーストゴロかセカンドゴロになって、ダブルプレーになるだろう」という思惑があるからだ。
その変化球がアウトコースの甘めに入り、引っ張られて一・二塁間を抜けるライト前ヒットになって、1アウト一塁が一・三塁になる場合もある。
バッテリーの思惑が外れたわけだが、ライト前ヒットはあくまでも結果であって、実際に一・二塁間を抜けるかどうかは誰にもわからない。さらに打者に関して言えば、「ストレートに遅れていたけれども変化球だったからたまたま引っ張れた」「たまたま変化球を狙っていたから引っ張れた」といったある種の「偶然」も考えられる。だから野球に詳しい人なら「あそこで変化球はないよ」などとは思わない。