儲かる農業2025 日本の夜明け#10Photo:Oliver Strewe/gettyimages

東京の大田市場を牛耳る青果物卸売最大手の東京青果が、ガバナンス不全に陥っている。市場のDXに同社首脳が待ったを掛けている他、役員による不祥事が相次ぎ、人材が流出しているのだ。特集『儲かる農業2025 日本の夜明け』の#10では、青果卸のガリバーに起きている異常事態を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)

役員が横領、セクハラ、独禁法違反の疑いも
不祥事多発の背景に親子による「長期独裁体制」

 国産青果物の7割強が経由する卸売市場は、農産物流通の要だ。だが、電話とファクスでのやりとりが残るアナログな世界でもある。その弊害として、需給の情報が効率的に伝わらない問題や、農産物の栽培方法などの価値が小売店などに届かないといった問題が指摘されてきた。

 旧弊を打破するため、市場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を提案したのが自動車部品メーカー最大手で、農業ビジネスに参入しているデンソーだった。

 その提案は、DXの第一歩として、QRコードを段ボールなどに貼って市場内の荷物の動きを見える化し、無駄を省くというものだ。年間1億円超のコストを減らすことができ、取り組みに参加する産地が増えるほどコスト削減効果の増大が見込めた。

 非効率を改善できれば、出荷する農協や農家にも還元できる。その社会的な意義の大きさもあって、青果卸最大手である東京青果の川田光太社長が2023年にプロジェクトリーダーを買って出て、卸から農産物を買う仲卸などに参加を呼び掛けていた。

 ところが、である。川田社長の父で東京青果会長の川田一光氏が24年4月、DXプロジェクトの中止を突如宣言した。取引先が理由を問いただしたところ、同会長は「データが漏えいされる心配があるから」と回答。守秘義務契約を結べば情報漏えいリスクは管理できると説得しても聞く耳を持たなかった。

 デンソーは世界の完成車メーカーの新車開発の情報を漏らさず、自動車業界で信頼を得ている企業だ。そのデンソーの提案を、情報漏えいの懸念という理由で却下する東京青果とはどういう会社なのか。

 東京青果を一言でいえば、「青果卸のガリバー」だ。大田市場や豊洲市場などを含む東京都中央卸売市場の取扱高の42%を占める。「東京都の台所を担っている」(同社社員)だけでなく、全国の青果卸のトップ企業として君臨している。東京青果から農産物を買う仲卸にとっては、機嫌を損ねたら仕入れが困難になりかねない怖い存在だ。

 東京青果は、流通量のシェアだけでなく、公設の卸売市場というインフラを借りて事業を行っていることからも、極めて公共性の高い企業だといえる。

 だが、ダイヤモンド編集部の取材で、そのガバナンスにはかなり不安があることが分かった。

 次ページでは、東京青果で発覚した取締役による横領疑惑、別の取締役によるセクハラ、さらには独占禁止法違反が疑われる事案を明らかにする。また、同社で不祥事が多発する理由にも切り込む。