いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

【気分が落ちたとき】メンタルが一発で「シャキッ」とするすごい一言Photo: Adobe Stock

会社倒産という不運

 かつて、勤めていた会社が、大きな負債額を抱えて経営破綻の憂き目に遭った。会社再生に向けて大幅なリストラを行った。私はクビは切られなかったものの、仕事の量と質が急に変わったり、取引先に冷たい態度をとられたりなどして精神的にダメージを受けた。

 もちろん給料もカット。ボーナスなどもらえるはずもない。

 経営陣に対して怒りの声はあった。

 だが、こうなってしまったことはもう仕方がない。

 一緒に働く仲間たちは、なんとかこの状況を笑いながら明るくやり過ごそうとしていた。リストラで去っていった者も多く、残った人は仕事があるだけでありがたかった。

 私は将来への不安や閉塞感から脱するため、社会保険労務士という資格試験の勉強を始めた。それまでやったことのない総務・人事関連の仕事もやらざるをえず、勉強が必要だったという事情もある。

 試験勉強は難しかったが、「私にはこの勉強がある」と思うと、仕事がつらくても頑張れた。そうして、出勤前や休日の時間を使って勉強し、勉強を始めてから2年目に合格することができたのである。

 確かに会社の倒産は不運な出来事だったが、この出来事をどのように耐えるか、乗り越えるかを考えることができたのは幸運だったと思う。

 不運な出来事は、私の資質を損なうわけではない。

 むしろ、高めるきっかけをくれる。

 のちにフリーのライターになってからも、会社員をしていた頃の経験は強みになったし、資格試験を通じてできた仲間たちが財産になった。人生、無駄なことはないのだなと感じている。

 いま不運な出来事があってつらく感じている人には、ストア哲学者マルクス・アウレリウスのこの言葉をじっくりと読んでほしい。非常に味わい深い言葉だと思う。

不運に高潔に耐える

この出来事は、あなたの公正さ、寛容さ、穏やかさ、良識、浅はかな意見や嘘に動じない心の妨げになるだろうか。
それは、謙虚さや自由をはじめとする、あなたの本質が獲得し、あなた固有のものとして存在する性質のすべての妨げになるだろうか。
苛立ちを招くことが起きるたびに、この原則に立ち返ることを思い出せ。
「これは不運ではない。これを高潔に耐えることは幸運なのだ」と。
(マルクス・アウレリウス『自省録』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より

 まず、自分自身が素晴らしい資質を持っていると肯定したうえで、「高潔に耐える」というのがいい。自己肯定感が上がる。

 当時の私や職場の仲間たちが会社の危機を「高潔に耐える」姿を想像すると笑える。だが、決して腐らず前を向いてできることをしたという意味では、高潔に耐えたと言っていいかもしれない。

 不運な出来事にやぶれかぶれになりそうなときは、「これは不運ではない。これを高潔に耐えることは幸運なのだ」と唱えてみてはどうだろう。気持ちがシャキッとして、頑張れる気がするのではないだろうか。

(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)