中国「CATL」はなぜ世界最大のEVバッテリーメーカーなれたか?BMWも取り込んだしたたかなビジネス戦略写真はイメージです Photo:PIXTA

クリーンエネルギーの重要性が高まる中で、EV用バッテリーの役割も増大している。そんな世界的な市場を牽引するのが中国のバッテリーメーカー「CATL」。同社の創業者である曾毓群(そういくぐん)らの功績を紹介しよう。本稿は、アクシャット・ラティ著・寺西のぶ子訳『資本主義で解決する再生可能エネルギー 排出ゼロをめぐるグローバル競争の現在進行形』(河出書房新社)を一部抜粋・編集したものです。

サムスン電子とAppleに
バッテリーを供給

 1992年、ソニーは世界で初めてリチウムイオン・バッテリーを商品化した。ソニーの商品、ハンディカムのオプションとして発売されたバッテリーは、それまでの標準的な電池であったニッケル・カドミウム蓄電池より30%小型化され、35%軽量化された。タイミングも最高だった。

 ムーアの法則(編集部注/半導体集積回路の集積率が18~24カ月で2倍になるという経験則)が示すように、コンピューター・チップのトランジスタ数は、概ね18カ月ごとに倍増する〔半導体の性能は、大きさを変えないとしたら18カ月(あるいは24カ月)で2倍になる。つまり同じ性能でよければ、半導体の大きさを2分の1にして、半導体を使う製品を小さくできる〕。

 それは家電製品の小型化につながるが、バッテリーの場合は、リチウムイオン・バッテリーが商品化されるまで小型化に追いつけなかった。リチウムイオン・バッテリーを商品化したソニーはたちまち成功を収め、1993年に300万個、1994年には1500万個を販売した。

 ソニーの成功にあやかった者もいた。1999年に31歳でアンプレックス・テクノロジー・リミテッド(ATL)を設立した曾毓群(そういくぐん)もそのひとりだ。ATLは設立から2年でデバイス100万台分のリチウムイオン・バッテリーを生産し、信頼できるサプライヤーとして名を揚げた。その成功により、ATLは2005年に、カセットテープや記録可能なCDを主力製品とする日本企業、TDK株式会社に買収された。

 曾と彼の右腕だった黄は、買収後もATLに残ると決めた。TDKはATLの製造工程に日本の規律を加え、リチウムイオン・バッテリー事業を最新の金の生る木、すなわちスマートフォンの市場とともに成長させた。黄によれば、その後間もなくATLは、サムスン電子とAppleの双方にバッテリーを供給するようになった。