
企業が環境対策を行いつつ利益を上げるのは、現在の資本主義システムの中ではなかなかに難しい。しかし、この両立を果たし、企業の収益と市場価値を増大させた経営者が英ユニリーバの前CEOであるポール・ポールマンだ。同氏によるサステナブル経営を紹介しよう。本稿は、アクシャット・ラティ著・寺西のぶ子訳『資本主義で解決する再生可能エネルギー 排出ゼロをめぐるグローバル競争の現在進行形』(河出書房新社)を一部抜粋・編集したものです。
直接排出量は半分
市場価値は3倍に
ポール・ポールマンは、過去にP&Gとネスレで働いた経験から、ユニリーバには他とは違う何かが必要だと理解していた。当時52歳の彼にとっては、多国籍企業で大きな仕事をする最後の機会となる可能性が高く、2009年に新しいCEOに就任した際は、自らの力を使ってより大きなことをしたいと考えた。それは、資本主義の刷新だった。
「私がはっきりさせたかったのは、ユニリーバは株主のためだけにあるのではないということです」、と彼は話す。
「私たちが最大限の努力をするのは、多様なステークホルダーのため、つまりユニリーバで働く人々、顧客、そして地球のためなのです」
「世界をよりよい場所にする」というような言葉は、投資家向けパンフレットでたびたび目にするが、実業界には「グリーン・ウォッシング」(環境に配慮しているイメージ、エコなイメージを与える「グリーン」と、ごまかしや上辺だけという意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語。環境に配慮しているように見せているが、実態はそうではないことを指す〕が蔓延していて、そうした約束を実行に移す企業は滅多にない。
ポールマンは、改革を目指す人がこれまで誰も口にしていないことを言っているのではない。短期的な利益のために資本主義を貫いても、長い目で見れば価値を下げることになる。彼が示したかったのは、よりサステナブルな資本主義の実現が可能だということだ。
驚いたことに、ポールマンはユニリーバのかじを取っていた10年間に、まさにサステナブルな資本主義を実現させた。彼の在任中、同社の市場価値は3倍に成長した。収益は30%増加し、直接排出量は半分以下になった。