食品と研究職写真はイメージです Photo:PIXTA

国の安全基準をクリアした食品しかスーパーには並ばないのに、なぜ「遺伝子組換え食品ってなんだか怖い…」と思ってしまうのか。そこに潜む人間の感情について、科学的な視点から解説していこう。※本稿は、竹内 薫『フェイクニュース時代の科学リテラシー超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、ディスカヴァー携書)の一部を抜粋・編集したものです。

「遺伝子組換え」の基本は
「品種改良」と同じ

 2023年の4月から、遺伝子組換え食品の表示制度が変わりました。「遺伝子組換えでない」と表示する基準が、厳しくなったのです。遺伝子組換え食品の安全性は厚生労働省により確認されているものの、消費者庁によれば「消費者の選択の機会の拡大」のために制度改正をしたとしています。

 2001年に遺伝子組換え食品の表示義務が実施されたときのように、世間で大きく騒がれる機会は減っていますが、いまだに「遺伝子組換え食品」と言われると、なんとなく不安だと感じる人もいるのではないでしょうか。遺伝子組換え食品と自然につくられた食品を並べられたら、自然につくられたほうを選びたくなる感覚というか。

 遺伝子組換え食品は、「細菌などの遺伝子の一部を切り取って、その構成要素の並び方を変えてもとの生物の遺伝子に戻したり、別の種類の生物の遺伝子に組み入れたりする技術」によってつくられた食品です(厚生労働省ウェブサイトより)。

 似た言葉として「品種改良」があります。ジャガイモ、トウモロコシ、牛肉など、これまでにたくさん行われてきて、とくに大きな問題にもなりませんでした。ただ、品種Aと品種Bをかけあわせることでより良い品種を作り出すわけですから、品種改良も遺伝子組換えも、基本的な考え方は同じと言えます。

 実際、品種改良の過程の中でも遺伝子の組換えが自然に起こっていますし、地球生命の進化の長い歴史の中でも、突然変異によって遺伝子の組換えはたくさん発生してきました。

 自然に任せておいて遺伝子が組換えられることもあれば、品種改良で異なる資質を持つ品種をかけあわせるなかで、遺伝子組換えが起こることもある。そう考えると、良い遺伝子を人為的にねらって組み込むのは、突然出てきた話ではなくて、段階を踏まえたものなんですね。

 だから、たとえば遺伝子組換え技術によって寒さに強いトウモロコシをつくりました、害虫に食べられにくい大豆をつくりました、それがすぐに安全性を損なうことになるかというと、そんなに単純な話ではないはずなんです。