水の出る蛇口写真はイメージです Photo:PIXTA

2023年8月に始まった福島第1原発の処理水の海洋放出。科学的な観点に立てば「大きな問題はない」とされている一方、「危なそう」「身体に影響がありそう」とSNSなどで噂する人も多い。非科学的思考に基づく意見を目にしたとき、感情論と一線を引く重要性について考えていこう。※本稿は、竹内 薫『フェイクニュース時代の科学リテラシー超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、ディスカヴァー携書)より一部を抜粋・編集したものです。

水に関する情報は
非科学的思考が入り込みがち

「水」への関心を持つ人は非常に多いです。

 私たち人間はおもに水と炭素でできていて、体内の60%くらいを水分が占めています。だから水は毎日かならず飲みますし、水なしでは生きられません。安全でない水を飲めば、すぐに健康被害が出てしまいます。

 きれいな水、体にいい水をみんな飲みたいので、浄水器を買ったり、ミネラルウォーターを買ったりするわけです。日本の水道水は国際的に見てトップレベルに安全性が高い、みたいな話もよく出てきますよね。

 だから水素水のような、健康や美容に良いとされる水の情報は、科学的な効果があいまいでもついつい興味を持ってしまいます。水の安全性に関するニュースも話題になることが多いでしょう。それに、スピリチュアルなものと結びつけられることも多いです。

 ここでは、数十年前に大きく話題を呼んだ「水にきれいな言葉をかけると結晶の形が変化する」というインチキ事例と、ここ最近ニュースを騒がせた、原発の処理水をめぐる意見について、それぞれ科学的な視点から解説します。

 1999年、『水からの伝言』という本が話題になりました。その本の中で著者は、「ありがとう」ときれいな言葉をかけ続けた水はきれいな形の結晶になり、「ばかやろう」と汚い言葉をかけ続けた水は、汚い形の結晶になると述べています。この話はかなりのブームになり、シリーズ本や続編も出ていたので、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

 一部の教育現場では、先生がこの話に感動し、子どもたちに道徳的な話として教えていたようです。

 ただ、これはかなり非科学的な話で、非常によろしくないブームでした。科学畑の人間からすると、議論する余地もないくらい荒唐無稽な話なんですよ。どういうメカニズムなのかが、まったく説明できないですからね。

 たとえば人間同士だったら、いい言葉をかけると相手は気分がよくなって、ちゃんと仕事をしてくれる、みたいなことはありますよね。でもこれは、感情や思考をつくりだす脳神経のような、複雑な回路があって初めて起こることです。

 普通の水には、そういった回路があるとは証明されていませんし、おそらくほとんどの科学関係者は「ない」と思っているのではないでしょうか。声かけで水に変化が起こるという話は、ほぼほぼ黒だと言っていいでしょう。