
「生き方や感情は顔つきに現れる」という楠木新さん。著述家として多くの人を取材し、さまざまな「顔」に接してきた経験から、いつしか「顔の研究」がライフワークになったと言います。『豊かな人生を送る「いい顔」の作り方』第12回は、コミュニケーションにおける「いい顔」について、考察していきます。
休日にホテルで「表情の変化」を観察
私はかつて、ホテルのフロントと喫茶ラウンジの間にある楕円形の待ち合わせソファに座って人の表情の変化を観察していたことがあります。
そのホテルでは、毎週土曜日、日曜日の午後になると、ロビーで、仲人やお見合い業者が2人の顔合わせを行います。そこで紹介された二人は、まずは喫茶ラウンジで、お茶を飲みながら初対面で会話を始めます。毎回5、6組が同時にラウンジに入ってくるのです。
どの2人も手前の席に女性が座るので、ソファにいる私からは数人の男性の表情を眺めることができました。しかも13時、14時、15時といった区切りの良い時間にお見合いが始まるので、初対面からの表情の変化を同時横並びで確認できるのです。だいたいどの組も30分から40分くらいで話を切り上げて、2人でホテルから出ていきます。20分もすると次のグループが同じ席で同様に会話を始めます。
初対面なので、当初、男性の表情は一律に硬い。これは相手に対する第一印象をくみ取っているタイミングだと感じました。そこから比較的短時間で表情が柔和になる男性もいれば、30分たっても硬い表情のままの男性の顔もあります。もちろん、単なる傍観者である私には、彼らの会話の内容は知るよしもありません。
しかし時間の経過に応じて男性の表情の変化を見ていると、どのような雰囲気で会話が進んでいるかは手に取るように分かります。数人の顔の変化を同時に見比べることができるので違いも把握しやすいのです。