日本を代表するマーケターで、大ヒット中の新刊『確率思考の戦略論 どうすれば売上は増えるのか』を上梓した森岡毅さん(株式会社刀 代表取締役CEO)と、『世界標準の経営理論』などの著者で経営学者の入山章栄さん(早稲田大学ビジネススクール 教授)が、消費者理解の本質について語り合う対談シリーズ。この第2回では、P&Gでヘアケア商品担当になった当時、なぜ人は髪を染めるのか知りたくて森岡さんがとった極端な行動とその理由、成果などを通じて得た消費者理解の本質を浮き彫りにしていきます。(構成:書籍オンライン編集部)

【森岡毅×入山章栄対談(2)】「結果が出る人」と「うまくいかない人」の“努力の中身”の決定的な違い森岡毅氏(左)、入山章栄氏(右)

髪を金、赤、紫、白……と次々染め変えた

入山章栄さん(以下、入山) この対談では、森岡さんがこれまで消費者理解のために実践したエクストリーム(極端)な行動や、それを通じてわかったことを伺ってきています(本対談シリーズ第1回の「人はなぜテーマパークに行くのか」を検証したエクストリーム体験も必読!)。また一例を挙げると、P&G在籍時にヘアケア商品の担当になられて、髪を金髪に染めておられたとか。

森岡毅さん(以下、森岡) はい。金髪どころか、3日から2週間おきに、赤、紫、当時は新色だったアッシュ系の白……とつぎつぎ染め変えてました。

 髪全体が白っぽくなると、元来いかつい面構えですし、今よりかなり体重も重かったですから、ぱっと見は堅気に見えないわけですよ(笑)。近所の方からも陰で言われていたみたいで、家族から真剣な顔で「どうにかならないの」と苦情を言われたし、会社の先輩からも「一生懸命なのはわかるけどさ、見た目がやばいよ」と、真剣に注意されました(笑)。

入山 ご家族や会社の先輩の気持ちもわかるような(笑)。

森岡 なぜそこまでやったかというと、私自身はもともとファッションや髪形には興味がなくて、「寒くなければ裸でもいい」というタイプなんですよね。でも競合に勝つためのプランをつくるとなったら、そもそも消費者が「なぜ煩雑な作業をしてまで、髪の毛を染めるのか」その動機を見極めないといけない。だから、めちゃくちゃ髪を染め変えている人と同じペースで同じ色で染める、というのを自分の肉体で試してたんです。

入山 そもそも人が髪を染めることの本質を探りたいわけですね。

森岡 そうです。頻繁に染めすぎると、頭皮がはがれたり、髪の毛がボロボロになってくるんですよね。だからカラーシャンプーがいるんだな、とわかるわけです。ほかにも、スタイリング剤をたくさん使うと、シャンプーでは完全に落ち切らずに残ってしまって、スタイリング剤が効かなくなってくるんです。だから、クラリファイングシャンプー(頭皮や毛髪のべたつき、スタイリング剤を落とせる洗浄力の強いシャンプー)がいるんだな、とわかる。

 普通は、「クラリファイングシャンプーは1.4%のシェアがある」というところから入っちゃうんですけど、私の場合は、そもそも「なんで普通のシャンプーじゃなくて、クラリファイングシャンプーを買うんだろう?」というのを知りたくなる。すると、私は察しが悪い人間と自覚しているので、それをやってる人と同じ行動をとろうとして極端な行動をとってしまうんですね。

米国人にも認定される筋金入りの“Mr.Extreme”

【森岡毅×入山章栄対談(2)】「結果が出る人」と「うまくいかない人」の“努力の中身”の決定的な違い森岡 毅(もりおか・つよし)
株式会社刀 代表取締役CEO
神戸大学経営学部卒業。96年、P&G入社。日本ヴィダルサスーンのブランドマネージャー、P&G世界本社で北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表などの要職を歴任。2010年にユー・エス・ジェイ入社。高等数学を用いた独自の戦略理論を構築した「森岡メソッド」を開発。窮地にあったUSJに導入しわずか数年で再建。その使命完了後の17年、株式会社 刀を設立。「マーケティングとエンターテイメントで日本を元気に!」という大義を掲げ、成熟市場である外食産業や製麺パスタ関連業界、金融業界、観光業界など多岐にわたる業界・業種において抜群の実績を上げる。24年、イマーシブ・フォート東京をオープン。新テーマパーク「ジャングリア沖縄」の25年7月のオープンにも取り組む。

入山 昔から極端に行動してしまうタイプですか?

森岡 こういう習性は子どものころからで「森ちゃんは極端や」と言われてましたし、米国でも「Mr.Extreme」と呼ばれてました。

入山 え! 米国人に言われたんですか(笑)?

森岡 そうなんです。たとえばP&Gに入社したとき、最初の4か月間は米国で英語のトレーニングを受けたんですね。みんな英語のクラスは一生懸命受けますけど、それ以外は日本人同士は日本語で話してました。私は「英語を勉強する」と決めたら、日本人同士でも英語でしか話さないし、両親が電話をかけてきたときすら英語で答えてました。

入山(爆笑)そこは日本語でよくないですか?!

森岡 後で考えると何の意味もないんですけど(笑)、私は「100 - 0」の人間なので、一言でも日本語を話してしまったら英語の世界に戻れない、という気がしていました。なんでもそうで、「毎日走る」と決めたら本当に毎日走らないと、途切れたらダメになる、と思ってしまう。極端にやらないと自分に行動をはめ込めないというか、極端な状態を維持しているのが自分にとって気持ちいい。子どものころから「ほどほど」が一番苦手で、「ほどほどに食べて」「ほどほどに運動して」と言われると、どうすればいいのか私にはわからないんです。

入山 周りからいろいろ言われませんか。

森岡 言われますよ!「あんた、おかしい」と。子どものころからずっと言われてきたので、「私はおかしいんだろう」と思って、もう受け入れてます(笑)。おかしい私なりに、人がマネできないおかしいまでの集中力を生かして、消費者を理解したり一般に諦めてしまいそうな課題に挑みたい、とむしろ思ってます。

入山 おかしいところを武器にする、と。

普通の人は「変数」を動かし、イノベーターは「定数」を動かす

【森岡毅×入山章栄対談(2)】「結果が出る人」と「うまくいかない人」の“努力の中身”の決定的な違い入山章栄(いりやま・あきえ) 
早稲田大学大学院経営管理研究科、早稲田大学ビジネススクール教授 
慶應義塾大学卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事後、2008年 米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.(博士号)取得。 同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。2019年より教授。専門は経営学。国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。メディアでも活発な情報発信を行っている。

森岡 世の中には大きく分けると「努力すれば、なんとかなること:変数」と「努力しても、どうにもならないこと:定数」の2つしかないですよね。一般的な前提でいえば、「定数」に努力を集中して疲れ果てて人生がうまくいかないより、「変数」に集中すべきなんだと思うんです。

入山 変数を変えることに集中したほうが現状を変えられる、というわけですね。

森岡 一般的にはそうです。ただし、これイノベーションを起こすとなると「一見して定数だと思うことを、どうにかしたら動くんじゃないか」と発想するところからしか生まれないと思ってます。「一見して定数に思えるものを変数に変える」ことこそ痛快です。

 そのためには尋常ならざる根気と集中力が必要で、そこまで徹底して考え続けると普通は疲れてくるものですが、私は解が見つからないことを考え続けることが好きなんですよ。マゾですね。そういう思考の持久力が私の強みなのかなと思うんです。過集中ぎみですけど。

入山 めっちゃ面白い! 憑りつかれたら、1日、1週間、1か月……とずっと考えるんですか。

森岡 ずーーーっと考えます。こうなのか、ああなのか? なぜなのか……? 考えてて、2回車にはねられましたし、1回崖から落ちました。

入山 ええっ!?

森岡 私、これまで10回救急車に乗ってますが、幸いまだ死んでないので、人間は簡単に死なないですね(笑)。でも、集中してるときは車の運転はしないようにしてます。

入山 それはぜひ気を付けていただきたい(笑)。先ほどの髪を染めまくっていたときに得られたインサイトは、どういうものだったんですか。

森岡 言い方が難しいのですが、やっぱり「異性に選ばれる確率を高めたい」ということなんですよね。外見に関わるものは、化粧品も服装も基本的にはそうです。

 服装についてはもう1つあって、社会において上の階級にいる人間だと思いたいし思われたい。そのほうが生存確率が高まる、という人間の進化の過程で組み込まれた遺伝子レベルのプログラム、いわゆる本能によって、意識を超越したところで操作されている。

入山 特に若い人は「モテたいか、モテたくないか」ですよね。

森岡 簡単に言うと、そういうことです。

 その人にとってはクジャクの雄が羽を広げるのと同じ行為で髪を染めている、と思ったので、当時は会社で「ピーコック理論」と呼んだけど、誰も理解してくれませんでした。私の表現力不足です(笑)。

<次回は5月1日に【森岡毅×入山章栄対談(3)】を公開予定>
――本対談シリーズの過去掲載分はこちら―― 
【森岡毅×入山章栄対談(1)】「テーマパークが好きな人」と「テストステロン」の切っても切れない深い関係とは?