「25%」「50%」「チーム丸ごと」――とびかう「リストラ」の噂
それから1日たった今日、うわさは過熱の一途である。
たとえば、トラに死神、ジャック・スパロウの仮装をした仕事仲間がカボチャランタンの吐きだしたスパゲッティを食べていたお昼ごろ、数字がささやかれるようになった。
25%だ、50の可能性もある、聖域なしらしいという具合だ。チーム丸々もありうる。悲惨な話もあった。
リストラはすぐに行われる、来週11月1日のボーナス支給日より前らしいというのだ。
「誰をクビにするの?」
そこまでのことにはならないとジェシカは思っていた。そういう混乱から社員を守る法律がカリフォルニア州にはあるからだ。それでも、近いうちにクビ切りがあるのはまちがいない。
そのとき、自分は、どの部下のクビを切るのか決めろと言われるのだろうか。そんなの、選べるはずがない。現実の人が現実の家族と現実の暮らしを営んでいるのだ。
ニューヨークの事務所で隣に座る若い女性をクビにできるのか?
妊娠6ヵ月でもうすぐ産休に入る人間を?
じゃあ、その向こうに座る男性か?
2ヵ月前にがんと診断され、医療保険でなんとか来年を乗り切ろうとしているところなのに?
買収完了。時代が変わる瞬間
ふと気づけば頭をふりつつ歩くともなく歩いて、窓のところまで来ていた。
体を割り込ませて窓際に進み、みんなと同じく下を見る。9階下は道だ。ビル入口前の歩道に人だかりができている。窓際の倍くらいもいるだろうか。
こんな遠くからでもテレビカメラやマイクが見えるし、カーブした道沿いには、衛星通信のパラボラアンテナや触角のようなアンテナを何本も立てたテレビ局のバンが何台も停まっている。
買収の手続きが正式に完了したことが伝わったのだろう。そう思った瞬間、館内放送の曲がハロウィーンの定番、「モンスター・マッシュ」から「スリラー」に変わった。
ビリオネアの怨敵が正面から城門を突破し、切りこんできたわけだ。
(本稿は『Breaking Twitter』から本文を一部抜粋、再編集したものです)