イーロン・マスクによるツイッター買収劇とその後の混乱を描いた『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』(ベン・メズリック著、井口耕二訳)。著者は大ヒット映画『ソーシャル・ネットワーク』原作者、ベン・メズリック。本書はメズリック氏による関係者への徹底的な取材をもと、マスクの知られざる顔に迫る衝撃ノンフィクション小説だ。「生々しくて面白い」「想像以上にエグい」「面白くて一気に読んだ」など絶賛の感想が相次いでいる本書。今回は本書の発売を記念し、ツイッター買収騒動の最中にツイッター全社集会で「イーロン・マスクが語ったこと」を一部抜粋・再編集してお届けする(全3回のうち第3回)。

「基本は出社して仕事」。マスクが求めた「ツイッター社員の働き方」とは
レスリーもツイッターブルーに懸念を抱いたかもしれないのだが、そのそぶりは見せず、聞いている人々に直接的な影響のあるトピックに話を移す。
「当社では、分散型の働き方を戦略の中心にすえてきました」と切りだした。
いかにも企業人らしいもってまわった言い方だ。
「社員の大半は働き方がハイブリッド型です。フルタイムのリモートワークは1500人ほど。リモートワークについてどう考えておられるのか、特にツイッターにおけるリモートワークについてどう考えておられるのか、お聞かせいただけないでしょうか。テスラの上層部に対し、リモートワークに関する通達を出されたりしていますよね」
マスクは、一瞬、気色ばんだように見えたものの、次の瞬間には軽い笑みになっていた。
「そうですね、テスラは車を作っているわけで、車をリモートで作ることはどう考えてもできません……基本的には出社して仕事をすべきというほうに強く傾くことになりますが、ただ、抜きん出た人ならリモートワークでもかまわないでしょう……基本的には、これはもう、出社して仕事になりますね。
すごくいい仕事ができるのに、リモートでしか働けないからとクビにするのは、どう考えてもおかしいと思います。おかしいですよ。
あ~、なんというか、変なほうに行きたいとは思っていません。事業が成長し、いいものとなるほうに行きたいと思います」
「分散型の働き方」がもたらした職場の変化
がらんとしたビルにある自分のオフィスで、マークは、思わずにやりとしてしまった。みんながどうして自宅でリモートワークをしたがるのか、よくわかっているらしい。
自宅で仕事をするほうが快適で、生産性が上がる人もいる。
通勤しなくていいし、いらん会議に集まる必要もないし、エレベーターやカフェテリア、スムージーバーで時間を無駄にすることもないからだ。
しかし、「分散型の働き方」へのシフトをきっかけに働き方がどんどんルーズになり、なにごともなし遂げるのが難しくなってしまった―全体としてはそうなってしまったとマークは感じていた。