今年の4月19日、政府は「勉強時間を担保するため、できるだけ就職活動を遅くすることが望ましい」として、経団連、経済同友会、日本商工会議所のトップを首相官邸に招き、採用活動開始時期の繰り下げを要請した。3団体はともに受け入れの方針を示し、これにより、2016年春に入社する学生たちから、広報活動は現行3年生の12月開始から3月へ、選考は現行の4年生の4月から8月開始に変更となった。
学業を阻害しないように採用活動を後倒しすることは、長らく大学側の希望でもあったわけだが、果たしてこのようなルール変更は、期待通りの成果を上げることができるのだろうか?
本当に3月・8月ルールは守られるのか?
まずひとつの疑問が浮かぶ。それは本当に採用時期の変更がきれいにできるのか、ということだ。
今回政府は経済3団体に要請を行い、各団体は受け入れの方針を示したが、実はこれをもって新卒採用を行うすべての企業が後倒しに従うことになるわけではない。
日本経団連は就職活動のルールを倫理憲章として定めているが、倫理憲章にサインしている企業は経団連加盟企業1300社中、830社程度である。また、経済団体が約束したことは周知することであって、守らせることではない。新経連は周知も行わない方針のようであるし、そもそも新卒者を採用している会社の総数は日本全体で約10万社に及ぶのだ。
経団連の倫理憲章が新卒採用市場全体に影響を与えていることは事実だが、倫理憲章の前身である就職協定には「青田買い」と呼ばれる破られ続けた歴史がある。そのために一旦廃止されて現在に至っているので、簡単に右から左へと変われるわけではないことをまず理解しておく必要がある。
もし、守られずに4月に選考する会社や8月に選考する会社などに分散すれば、学生たちはまず4月に照準を合わせて就活を行い、内定を1つでも得て、その上で8月の選考集中時期に臨もうとするだろう。
そうなれば就活は全く後倒しにはならずに長期化するだけで終わる。これでは改善ではなく改悪になるだけだ。長期化すれば、今度は卒業論文や卒業研究にも悪影響が出てくる。その危険性を大いに孕んでいるのである。