クロスボーダーな経験こそが、変革期の醍醐味

 移動距離が長く、さまざまな思想や可能性の世界に触れた幕末期の人物といえば、坂本龍馬もその1人でしょう。

 土佐で剣術修行にはげみ、土佐藩から江戸遊学の費用を出してもらうことで、龍馬は土佐(高知県)から江戸、現在の東京中央区の北辰一刀流千葉道場に、入門します。ちなみに龍馬はペリーが黒船で来航した時、江戸にいて品川で土佐藩の守備隊の任務にもついています。

 龍馬はその後、多くの人たちとの巡り合いの中で成長を重ねていきますが、彼がさまざまな人の前に足を運んだこと、多くの思想や可能性を抱いている人たちに接触したことは、彼の活躍と無関係ではありえないと思います。

 ビジネスも変革期には「調子を落としているグループ」と「新しいチャンスに満ちているグループ」が併存している状態です。そのような時期、自らの足を使い、今所属しているグループとは別の発想、思想、新たな技術に触れることは、閉塞感を打破するもっとも確率の高い手法の一つです。

 変革期だからこそ、私たちは思い込みに囚われてはいけないのです。業界の境界線(ボーダー)、ビジネスの境界線、技術の境界線を越える刺激と新たな知恵を求めて、クロスボーダーな行動力を発揮すべき時。それこそが変革期なのです。

自己最適化の小さな世界観から飛び出す

 自己最適化とは、手の届く範囲にある部品で、自分自身を(現状での)最適な形に組み立てることです。これは多くの物事が順調に行っている時には、よい選択です。

 ところが、調子を落としている時、長い閉塞感を業界や企業全体で体験している時は、今さら自己最適化をさらに推し進めても、得られる成果は予想の範囲内にしかなりません。

 福沢諭吉が江戸で勉強をし続けても、咸臨丸で渡米したほどの知識や体験のインパクトは、決して得られなかったはずです。手に届く範囲の知識や技術、人に関してはすでに経験済みだったからです。

 私たちが探しているものは一体なんでしょうか?

 小さな世界観から飛び出して、新しい発想を得る刺激を求めているのではないでしょうか?今皆さんがいる業界の垣根を飛び越えて学ぶ、これまでの行動範囲を遥かに飛び越えて移動する。

 貴重な経験は、椅子に座り、ただ口をあけて待っていても手に入りません。あなたが何の行動もしないあいだに、現代の福沢諭吉は木村摂津守に紹介状を手に会いに行って、すでに咸臨丸に搭乗しているかもしれないのですから。

 インターネットの時代に、情報がないという言い訳はできません。新たな知識、新たな経験、新たな可能性、新しい技術。これらに触れることができる場所は日々世界中で増え続けています。

 世界は動いています。動いていないのは、あなたの足だけなのです。