株式投資界隈で話題の本がある。YouTubeで人気を博す栫井駿介氏の最新刊『買った株が急落してます!売った方がいいですか?』だ。この物語に登場するのが、個人投資家たちがひそかに通うひばり投資診療所の冷酷な女医・忌部あかり。彼女の診療は、単なるアドバイスではなく、投資家として生まれ変わるための“荒療治”だ。作中でエリート商社マン・波野衿人を叩き直した忌部あかりが、今度はあなたの投資相談に乗る。
「買った株が下がって焦っている」「利益が出たのに、どこで売ればいいか分からない」「決算が良いのに、なぜか株価が暴落……」そんなあなたの迷いに、忌部あかりが診断を下す。優しくなんてしない。でも、あなたを勝てる投資家へと導くために。さあ、診察室へどうぞ――覚悟はできている?(構成/栫井駿介、ダイヤモンド社書籍編集局)

フジクラ(5803)の株、持ったままでいい?
【相談内容】
昨年末にフジクラの株を購入。年明けまでは順調だったものの、ここ最近の急落で含み損に。「もしかしたら、買ったところが天井だったんじゃないか」「このまま下落が続くんじゃないか」と不安です。このまま持っていていいのでしょうか?

フジクラ、今は売り時?買い時?
―― 昨年末にフジクラの株を買いました。年明けは順調だったんですが、最近は相場が荒れて、大きく上下しています。売ったほうがいいのでしょうか?
忌部あかり(以下、忌部):まず聞くけど、あなたはフジクラの何に期待して買ったの?
―― AIデータセンター向けの光ファイバー需要です。AI関連株として、今後ますます伸びるだろうと思って……。
忌部:AIブームが続くと思って買ったんでしょ? じゃあ、なんで売ろうとしてるの?
―― ……ずっと右肩上がりだったのに、2月後半から失速して、たった2ヵ月の間で、一時はピークの半値まで落ちました。バブル的に盛り上がった銘柄を、高値でつかんじゃったんじゃないかと思うと、不安で。
忌部:何を基準に「高値」だと思ってるの? 確かに株価はこの数年で何倍にもなった。でも、営業利益だって4~5倍に伸びてる。つまり、株価だけじゃなく、会社の実力も伸びてるってこと。PERは19.2倍(2025年4月30日時点)。すごく割高というわけでもない。株は上がったから高い、下がったから安い――そういう単純な話じゃないの。
―― じゃあ、なんでこんなに下がっているんでしょうか?
忌部:山高ければ谷深し。一気に上がった銘柄は、大きく下がることもある。利益確定で売る人が増えれば、目先はどうしても売られやすい。でも、それは短期の動き。長い目で見れば、業績に沿って株価は動いていく。
株価のアップダウンを覚悟しているか?
―― 何十%も含み損になった株を持っていていいのでしょうか?
忌部:大事なのは、これから上がるか、下がるか。あなたがいくらで買ったかなんて、投資判断にはまったく関係ないの。それと、投資期間も大事。1ヵ月先を見据えて買ったのか、5年後を見据えて買ったのか──それによって、答えは変わるわ。どっちなの?
―― 買った時は、先を見据えて投資したつもりです……。
忌部:じゃあ、質問するけど、フジクラのビジネスをどう見てるの? ここ数年の成長は一時的で、この先は悪化すると思う? それとも、まだ伸びていくと思う?
―― ……業績を見ると、フジクラの2025年3月期会社予想は過去最高益です。AI市場はまだまだ伸びていくんじゃないでしょうか。
あ、でも、Microsoftがデータセンター投資を縮小するってニュースを見ました。光ファイバーが供給過剰になるかもしれないって話を聞いて。供給過剰になれば、価格競争で利益が圧迫されるんじゃないか。
忌部:たしかにMicrosoftの話は出たわね。でも、GoogleやAmazon、Metaを筆頭に、市場全体で見れば、データセンターへの投資は続いているわ。
しかもフジクラは単なる量産メーカーじゃない。曲げに強く、損失が少ない高性能光ファイバーを作れる技術力がある。しかも、光ファイバーだけじゃなく、高密度コネクターやケーブルアセンブリでも強みを持っている。簡単に価格競争に巻き込まれる企業じゃないのよ。
―― ビジネスは堅実だと思っているのですが、株価やニュースを見るたびに気持ちが揺れて……。
忌部:あなたは明日の株価ばかりを気にしている。それはつまり、腹が決まっていないってこと。特にAI関連みたいなブームの銘柄は、期待で大きく上がる分、下げも激しい。その振れ幅を覚悟したうえで投資できる人が勝てる。日々の値動きに振り回されて一喜一憂する人には、そもそも向いてないのよ。
※本記事は、『買った株が急落してます!売った方がいいですか?』(栫井駿介・著)の登場人物・忌部あかりをもとにしたフィクションです。