株式投資界隈で話題の本がある。YouTubeで人気を博す栫井駿介氏の最新刊『買った株が急落してます!売った方がいいですか?』だ。発売から1週間も経たないうちに増刷が決まるほどの大好評だ。
この物語に登場するのが、個人投資家たちがひそかに通うひばり投資診療所の冷酷な女医・忌部あかり。彼女の診療は、単なるアドバイスではなく、投資家として生まれ変わるための“荒療治”だ。作中でエリート商社マン・波野衿人を叩き直した忌部あかりが、今度はあなたの投資相談に乗る。
「買った株が下がって焦っている」「利益が出たのに、どこで売ればいいか分からない」「決算が良いのに、なぜか株価が暴落……」そんなあなたの迷いに、忌部あかりが診断を下す。優しくなんてしない。でも、あなたを勝てる投資家へと導くために。さあ、診察室へどうぞ――覚悟はできている?(構成/栫井駿介、ダイヤモンド社書籍編集局)

ゆうちょ銀行(7182)の株は、保有したままでいい?
【相談内容】
3月に証券会社の案内で、ゆうちょ銀行の公募・売出に応募して、ゆうちょ銀行株を買いました。
配当利回りもいいし、業績も安定。このまま持ち続けて大丈夫ですよね?

配当利回りは魅力的?
―― 公募・売出でゆうちょ銀行の株を買いました。このまま保有していて大丈夫ですよね?
忌部あかり(以下、忌部):どういう考えで、ゆうちょ銀行の株を買ったの?
―― 証券会社からすすめられたんです。配当利回りは約3.8%(売出価格1444円に対して)で魅力的だなと思って。
忌部:配当利回りが高いから? たとえばほかのメガバンクだって、そこそこ高い配当利回りよ。果たしてそんなに有利なのかしら?
―― 業績は毎年安定しています。安定した企業を長期で持つなら、配当が高い方が有利ですよね。それに銀行業界にとって、これからの金利上昇は追い風になるという話も聞きました。
忌部:数ある金融株の中で“ゆうちょ銀行”を選んだってことは、ほかの銀行との違いは理解してるのよね?
―― えっと…もともと国の直営事業だった銀行ですよね。
忌部:それで? ほかの銀行とは何が違うの?
―― えっと…
忌部:はあ…何も考えずに、配当利回りだけ見て、案内されたとおり買ったのね。
ゆうちょ銀行の収益性
忌部:教えてあげるわ。ゆうちょの口座があるでしょ。顧客の預金を有価証券で運用して利益を出すっていうのが、ゆうちょ銀行のビジネス。ひと昔前は国債で運用していたけれど、近年は外国証券、特に外国債券で運用しているの。
―― ほかの銀行とは何が違うんですか?
忌部:ほかの金融機関がやってるような貸出業務は、これまで規制があって、ほとんどできなかったの。
ゆうちょ銀行の親会社は日本郵政で、日本郵政の筆頭株主は政府。ゆうちょ銀行は政府の「孫会社」として法律上の制約があったわけ。貸出ができない分、収益性はほかの銀行に比べて低いと言わざるを得ないわ。
―― でも今回の売出しで、規制が緩和されると聞きました。ほかの銀行みたいに貸出業務に乗り出せば、今後収益の改善が期待できるんじゃないでしょうか?
忌部:たしかに今回3月の売出しで、日本郵政の出資比率が50%以下になれば、規制が緩和される。新規業務に乗り出すかもしれない。でもノウハウも体制も整っていない中で、ほかの金融機関との競争に勝って成長していくと思う?
―― なるほど……。それでも業績は安定しているんじゃないでしょうか。実際に純利益を見ると、毎年3000~4000億円の黒字です。収益のほとんどが運用益といったって、その資金が潤沢であれば問題ないんじゃないですか。
忌部:たしかにゆうちょ銀行の貯金残高は日本でトップクラス。資金は潤沢に見えるし安定した黒字。でもね、1兆円を超える含み損を抱えていることは理解している?
―― ええっ!
忌部:2025年3月期第3四半期の時点で、含み損が約1.4兆円ある。資金の多くを外国債券で運用をしているの。ここ数年で海外で金利が上がってきたわよね。金利が上がると債券価格は下がる。そのせいで、含み損を抱えた状況になってるの。
貯金残高が今後減っていく?
忌部:最近ゆうちょ銀行の貯金残高が減ってきてるのは知ってる?
―― そうなんですか?
忌部:2022年度までは増加していたけど、2023年に入って減少に転じているわ。あなたゆうちょ銀行の口座持ってる?
―― 一応持ってますが、
忌部:一応? 最近使ってる?
―― えっと…メガバンクやネット銀行を主に使っています。
忌部:自分が“顧客として選んでない銀行”に、投資家としてお金を託すのは、おかしいと思わない?
田舎に住んでいる高齢者がゆうちょ銀行にお金を預けているでしょ。相続となると、あなたみたいに都会に住んでいる次の世代が、使い勝手のいい他行に資産を移すのは自然な流れじゃない?
個人の預金という観点では、国内最大規模の顧客基盤があるから、安定した利益を維持できていた。けれど、その肝心の顧客基盤が崩れていくとしたら、どうなるかしら。
―― ……。
忌部:誰かに勧められて、なんとなく買った株が、自分にとってベストな銘柄だなんて思わないことね。大切なのは選び続ける視点を持つこと。そうすればあなたの投資はもっとよくなるわ。
まずは同じビジネスをやっている企業を見て比べることね。基準になるデータをまとめてみたわ。これはおまけよ。あとは自分で考えなさい!

※本記事は、『買った株が急落してます!売った方がいいですか?』(栫井駿介・著)の登場人物・忌部あかりをもとにしたフィクションです。