「事業を成功させるには3つのアプローチがある。〈理想企業〉を構想する。〈機会〉を最大化する。〈人材〉を最大利用する」(ドラッカー名著集(6)『創造する経営者』)
GMの中興の祖アルフレッド・P・スローンは、価格と性能の異なる5つの車種で市場をカバーした。各車種は、上下の車種と競争関係にあるよう設計した。それまで厄介者だった中古車市場こそが大衆市場であるとし、新車は数年で下取りに出せるよう設計した。
このスローンの構想は、ひらめきによるものでも計算によるものでもなかった。大掴みの〈理想企業〉のビジョンによるものだった。
スローンの構想は、ただちに成果を上げた。そして、この成果の早さこそ、〈理想企業〉、すなわち市場が望む企業というアプローチの特質だった。
これに対し、ジーメンスやエジソンは、電気がもたらす〈機会〉を考えた。その機会を実現するにはいかなる発明が必要かを考えた。
ジーメンスは、発電機を発明した結果として電車を開発したわけではなかった。電車という産業を構想して、そのための動力源として発電機を開発した。
同じようにエジソンも、実用電球を発明した結果として発電所や配電システムを完成したのではなかった。電力という産業を構想して、そこに欠落していた電球を開発したのだった。つまるところ、二人とも新しい知識にとってのイノベーションの〈機会〉を探したイノベーターだった。
事業の成功には、もう一つ、〈人材〉の最大利用というアプローチがある。
ロスチャイルド家が地方都市の一介の金融業者からわずか20年でヨーロッパ随一の金融機関となり、大国の君主たちと肩を並べるまでに成功したのは、同家の最大の〈人材〉である四人の子どもに対し、才能と性格に最も適した機会、すなわち最大の貢献を行なえる機会を与えたからだった。
「これらの体系的なアプローチ抜きでも、GMは大企業になり、ジーメンスやエジソンは傑出した発明家となり、ロスチャイルドは大金融機関になったかもしれない。しかし、彼らに業界リーダーとしての地位を与えたのは、時代と環境がもたらした機会に自らの能力を適用する上で、彼らが使ったそれぞれのアプローチだった」(『創造する経営者』)