「優れた組織の文化は、人に卓越性を発揮させる。卓越性を見出したならば、それを認め、助け、報いる。そして他の人の仕事に貢献するよう導く。したがって優れた組織の文化は、人の強み、すなわち、出来ないことではなく、出来ることに焦点を合わせる。そして、組織全体の能力と仕事ぶりの絶えざる向上をもたらす。優れた組織の文化は、昨日の優れた仕事を今日の当然の仕事に、昨日の卓越した仕事を今日の並みの仕事に変える」(ドラッカー名著集(2)『現代の経営』[上])
その優れた組織の文化を実現するものが、行動規範である。したがって、行動規範とは口先のものではない。現実の行動の原理たるべきものである。誰にも見え、行え、評価できるものでなければならない。
それでは、優れた組織の文化に必要な行動規範とは、具体的にはどのようなものか。規範は五つある。いずれも、仕事と人事にかかわるものである。
第1に、常に優れた仕事を求めることである。仕事について高い基準を設定していることである。
第2に、あらゆる仕事を働きがいのあるものにすることである。
第3に、人事を公正に行うことである。
第4に、人事に関して上訴の道を用意しておくことである。
第5に、真摯さを絶対の条件とすることである。
これらの規範が規範として確立していなければ、いかなる社訓、社則、訓辞も絵空事に終わる。社長がいかに立派なことを言おうとも、人は人事で動機づけられ、仕事で自己実現するからである。
組織内の者から「うちは、給料はたいしたことないが、クビにもならないね」と言われるようになったら、もうおしまいである。ドラッカーは、このように言われることほど、組織とその文化を損なうものはないと言う。
それは、無難さの強調だからである。組織の中に官僚を生み出し、起業家精神を阻害するからである。そのようなことでは、優れた組織の文化を生むことはできない。
「人の強みではなく弱みに焦点を合わせ、出来ることではなく出来ないことを中心に組織をつくることほど、組織の文化を破壊することはない。焦点は常に、強みに合わせなければならない」(『現代の経営』[上])