仕事に子育てに忙しい毎日。離れて暮らす親に不測の事態が起きるなんて、想像したこともない人が多いだろう。
しかし、「そのとき」は突然やってくる。
病気やケガによる入院。施設への入所。突然のお別れ…。
親の緊急事態が起きたとき、真っ先に対応しなければならないのは、働き盛りの子ども世代である。とはいえ、自分の生活もある中で、すべてを引き受けることは難しい。そのため、近年では「実家じまい(家を手放す前の片づけ)」や「実家の片づけ」を専門業者に依頼するケースが急増している。
そこで、登録者数17万人の人気YouTubeチャンネル「イーブイ片付けチャンネル」運営者であり、書籍『1万軒以上片づけたプロが伝えたい 捨てるコツ』の著者・二見文直氏に、実家の片づけ問題とその対応策について、具体例をもとに話を聞いた。
(構成/樺山美夏、ダイヤモンド社・和田史子)

「実家の片づけ」で、子世代の生活が崩壊寸前に

株式会社ウインドクリエイティブ代表取締役。YouTubeチャンネル「イーブイ片付けチャンネル」運営者。一般社団法人遺品整理士認定協会認定遺品整理士。生前整理技能Pro1級。月平均130軒以上のお宅を訪問し、これまで1万件以上の片づけを経験。年間約5000件以上の相談を受け、のべ4万件を超える全国からの「片づけられない」悩みと向き合ってきた。2016年にスタートしたYouTube「イーブイ片付けチャンネル」は、登録者数16万人、総再生数7500万回を突破(2024年12月現在)。『1万軒以上片づけたプロが伝えたい 捨てるコツ』(ダイヤモンド社)は初の著書。
ここ数年、生前整理や遺品整理の相談は大きく増えています。特に、親御さんの施設入所や死後の手続きの大変さが、テレビやネットで取り上げられるようになったことで、「他人事ではない」と感じる人が増えているのではないでしょうか。
僕たちが運営するYouTubeチャンネル(イーブイ片付けチャンネル)にも、「ずっと悩んでいたけど、ようやく相談できました」という声が少なくありません。
依頼者の方から、よくこんな話を聞きます。
「まさかこんなことになるとは思わなかった」
「しばらく実家に帰らなかったら、年老いた両親が片づけもゴミ出しもできなくなっていた」
「実家の片づけをし始めたら、自分の生活が崩壊寸前になった」
「親が亡くなった後の手続きが大変すぎて、片づけどころではなかった」
特に、実家と離れて暮らしている人にとっては、物理的にも心理的にも負担が大きいのです。
手続きと費用の負担が、家族を追い込む
親の介護や死後の対応には、「今すぐ動かなければならないこと」が山のようにあります。病院や施設の手配、葬儀、相続、遺品整理…。どれも一つひとつ時間も労力もかかるのに、仕事や家庭の予定は待ってくれません。
さらに、大きな負担となるのが「費用」です。施設入所には、関西圏でも入居一時金・保証金・月額費用を合わせて、最低でも数百万円はかかります。実家の片づけも、3LDK・4LDKで数十万円単位。東京では廃棄物処理手数料がさらに高く、より高額になることも珍しくありません。
実家や自宅を売却して費用を工面する人もいますが、売却には時間がかかりますし、片づけや解体費用が先に必要になるため、持ち出しになるケースもあります。中には、相続放棄という選択をする人もいるほどです。
子育て資金が“消える”という現実も
教育費をコツコツ貯めてきた子育て世代が、その資金を親御さんの施設入所や片づけに充てざるを得ない。そんな家庭も、決して少なくありません。
もちろん、親御さんが老後資金を準備していれば問題はありません。しかし、老後資金といってもお墓と葬式代くらいは…と準備している人も、家の中の荷物を片づけるための費用まで想定して用意している親御さんはほとんどいません。なかには、家の片づけや施設入所に数百万円かかること自体を知らないという方もたくさんいらっしゃいます。
勝手に片づけると「敵」になることも
とはいえ、「早めに動かなきゃ」と思って、突然実家に押しかけて不用品を処分したり、「これどこ?」「あれどうなってるの?」と詰め寄ったりしてしまうと、かえって関係が悪化します。
どれだけ善意でも、親御さんにとっては大切なモノを勝手に奪おうとする「敵」と見なされてしまうのです。
実際、ある依頼者の方は「私のことを敵だと思っているから、お母さんは話を聞いてくれないのかもしれません」とおっしゃっていました。
また、実家を「出禁」にされてしまった依頼者の方も、一人や二人ではありません。
寄り添う姿勢が、実家の未来を変える
では、どうすればいいのか?
まずは、「親の味方になる」と決めてください。たとえ何を言われても、受け止める。感情的にならない。そして、住みやすさや安全性に寄り添う言葉から会話を始めてみてください。
たとえば、
「最近、何か困ってることある?」
「腰が痛いって言ってたけど、布団の上げ下ろし大丈夫?」
「地震が来たら危ないから、大きい洋服ダンスはそろそろ処分しようか?」
そんな風に、暮らしのことを一緒に考える姿勢を示せば、少しずつ心を開いてもらえるかもしれません。
大切なのは、「あなたのことを思っているよ」と伝えること
本当に大事なのは、「離れていても、あなたのことをちゃんと気にかけているよ」という気持ちを、言葉で・態度で伝えることです。
そうすれば、親御さんも何か困ったとき、子どもに相談しやすくなります。
離れて暮らしていると、会話の時間は限られるかもしれませんが、急がば回れです。
親御さんが元気なうちから、ゆっくり、じっくり、心の距離を縮めておくことが、将来の“実家の緊急事態”を防ぐ、何よりの備えになるはずです。