教育虐待が殺人事件に
発展してしまうケース
福井大学の友田明美教授は、著書『子どもの脳を傷つける親たち』(NHK出版)の中で、子どもの前で夫婦げんかしないよう強く勧めています(注1)。具体的には、LINEなどの見えない手段、聞こえない手段で話し合うことを提案しています。これは、家庭内での争いが子どもの脳に深刻な影響を及ぼすことが研究で明らかになっているためです。
中学受験を巡って、教育虐待にまで発展するケースも報告されています。2016年に名古屋で発生した事件では、父親が息子を包丁で脅して無理やり勉強させ、その結果、息子を死亡させるという悲劇が起こりました(名古屋小6受験殺人事件)。
子どもが加害者の側になった事件もあります。2018年に長年にわたる母親からの教育虐待が原因で、看護師の女性が母親を殺害するという事件が起こりました。母親の強い学力信仰により、子どもを精神的にも身体的にも追い込んでしまった実例です。この看護師の女性が服役中、マスコミに宛てた手紙の中で書いた「駄目な私も、お母さんの子どもとして受け入れてほしかった。失敗させてほしかった」という言葉がすべてを物語っているように感じます(注2)。

菊池洋匡 著
子どもが親の期待通りに行動しなかったり、テストの点が悪かったりしたとき、強く叱ってしまうご家庭はどこにでもあり、ありふれているかもしれません。そんなとき子どもは、「失敗した自分は受け入れてもらえない」「期待ばかりされて辛い」と感じ、親子関係の悪化へつながっていきます。
「人が死ぬ」という事態にまで発展すればニュースになり、多くの人に知られることになりますが、これらは氷山の一角です。背後には事件に発展する一歩手前、二歩手前で、子どもが深く傷つき、苦しんでいる家庭が無数にあるのです。
子どもの幸せを願って始めた中学受験が、親子ともに不幸な結末を迎えてしまえば本末転倒です。親子関係や家庭環境を見直し、子どもの健全な成長を最優先に考えることが重要です。