「自分がダメな子だから、両親がけんかしているんだ」と自責の念に駆られる子どもも少なくありません。こうした状況が続くと、子どもの心には大きなストレスや罪悪感が積み重なり、中学受験そのものが心の負担となってしまうのです。
家庭は本来、子どもにとって安心できる場所であるはずですが、中学受験が原因で親子関係や夫婦関係が悪化すると、その安心感が失われてしまいます。その結果、子どもが「勉強嫌い」になるだけでなく、精神的な面での健康も脅かされることがあるのです。
頻繁で激しい夫婦げんかは
子どもの脳に悪影響を及ぼす
こうした夫婦げんかを見せられたり、聞かされたりしながら育った子どもは、心理的な影響だけでなく、脳が物理的・生理的にも傷ついているということが、近年の研究で明らかになっています。MRIを用いた研究で、夫婦げんかを頻繁に見聞きしてきた子どもの脳を調べたところ、特定の部位が萎縮していたり、逆に肥大化していたりすることが確認されています。
例えば、脳の扁桃体という部分は、恐怖や不安といった感情を処理する役割を担っていますが、家庭内での争いを頻繁に目にした子どもは、扁桃体が過剰に反応しやすくなることが報告されています。このような状態が続くと、子どもは常にストレス状態にさらされることになり、不安や抑うつ感を抱えやすくなってしまいます。
また、前頭前野と呼ばれる部分は、自己制御や意思決定、共感といった高度な機能を司る場所ですが、ここが萎縮してしまうことで、感情のコントロールが難しくなったり、学習能力が低下したりする可能性が指摘されています。
さらに、脳の海馬という部位も影響を受けることがあります。海馬は記憶や学習に深く関わっていますが、慢性的なストレスによって萎縮してしまうことがわかっています。その結果、記憶力の低下や集中力の欠如が生じ、学業にも悪影響を及ぼす可能性があるのです。
こうした研究結果は、家庭内での争いが、単に心の問題にとどまらず、子どもの脳の発達そのものに深刻な影響を与えることを示しています。つまり、夫婦げんかや家庭内の緊張状態は、子どもの将来にわたる心身の健康に大きなリスクをもたらす可能性があるのです。