ミシンを始めて数週間後、玄関先に置き配の荷物が届いた。それは、リメイク用に注文した大量の剣道着だった。

 こっそり回収するつもりが、先に気づいた妻が「これはなぁに?」と聞いてきた。なんて説明しようかと言葉を探しているうちに、妻が中身を確認。10キロの米袋ほどの荷物の詳細を知った妻はそのまま何も言わず、少し微笑んでから奥の部屋へと戻っていった。

……あ、これはちょっとまずいかも……。

 妻の顔に「どういうおつもりですか?」と書いてあった気がして、というか、言葉にしないメッセージのほうが刺さることってあるんですね、以後コントで生かします、なんて思いながらきっちりと反省し、その日から、自分とミシンの距離感について考えるようになった。

 振り返ってみると、ミシンをきっかけに、家に帰れば布ばっかりさわっていたように思う。妻の妊娠中にどうして布ばっかりさわる必要があるのか。これは夫としてあまりにもどうかしている。

 我に返った僕は、おなかが大きくなってきた妻のワンピースを作ろうと思い立った。

ツギハギのワンピースで
ミシン離婚を回避

「マタニティ用の服っていろいろあるけど、どれも似通ってたり、短い期間しか着られないのに割高だったりで、なんだかしっくりこないんだよね」そう妻がもらしていたのを思い出し、ここしかないぞ、という気持ちで準備を開始したのだった。

「型紙から作る」なんてスキルはないため、古着のワンピースを買ってきて、そこに生地を足す方法で製作。なるべく肩から胸あたりまではもとのサイズを生かしつつ、おなかから下は広がりが出るように、古着を挟み込んで縫いつないでいく。デザイン的にちょうどいいイラストがあったので、それがおなかにくるようツギハギのバランスも考えてみた。

……お?……え、思ったよりもいいじゃない?ツギハギだけどまぁ、そういうデザインだと考えれば、ねぇ。

 完成したワンピースをドキドキしながら妻にわたすと「ありがとう!」と言って、すぐに着てくれた。サイズもちょうどよさそう。そしてなにより、妻が喜んでくれている。

 初めて人のために作って喜んでもらえたその感覚は、初めて人前でコントをやって笑ってもらえたあのときの感覚に少し似ていた……なんてカッコいいことを思う余裕はなく、単純にうわー、よかったーー!と思った。