『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第63回では、買収した企業の旧経営陣を残す意味について解説する。
社長を「追放」しないワケ
いよいよ中国に工場を立ち上げることになったアパレル企業・T-BOX。主人公・花岡拳は、生産部門のナンバー2である弥生を引き連れ、中国へと出張する。
そんな花岡の留守をぬって、ライバル企業・一ツ橋商事の井川泰子と密約を交わし、同社によるT-BOXの買収を画策する古参メンバーの大林隆二、菅原雅弘、片岩八重子(ヤエコ)らは密談を続ける。
ヤエコは工場で花岡が「企業の発展、従業員や株主の幸せになるのであれば買収を受け入れる」と語ったことを2人に共有し、最終的に大林から「(一ツ橋商事の)圧倒的資本の差であっという間に決着がつく。そうなったら井川と表立って手を組めばいい」として、それまでは引き続き、水面下で動き続けることを確認して、密談を終えるのだった。
一方で井川は、M&A担当の竹田と、T-BOXの買収についての検討を本格化させた。
竹田は井川に「T-BOXが我が社の事業展開に大きく貢献し、価格も割安で吸収できるとなれば、即ゴーサインは出るでしょう」と自信を見せる。竹田はまた、花岡の処遇について尋ねるが、井川は花岡を含めた経営陣を「追放」せずそのまま残して、継続性を優先させると語るのだった。
常軌を逸した井川の「暴言」
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
「花岡憎し」でT-BOXにさまざまな嫌がらせを仕掛けてきた井川。買収の理由を問われ「欲しいおもちゃだから」と暴言を放つなど常軌を逸した側面もあるが、ビジネスパーソンとしての勘どころはまっとうなようだ。いくら憎くとも、これまでT-BOXの成長をけん引してきた経営陣を即座にバッサリ切るという計画はないという。
「買収」というと、買った側の企業が、買われた側の旧経営陣を追い出して、自社や自分たちの息のかかった人間を経営陣として送り込むイメージが強い。だが現実には、買収後もしばらく元の経営陣を残すことは珍しくない。
理由は単純だ。買う側が本当に欲しいのは、会社の「看板」や「株式」そのものではないからだ。顧客との関係、現場の勘、組織を回すノウハウ――そんな企業の「中身」こそを求めているからである。
そのため、M&Aの実務でも、売却後に元経営者が一定期間会社に残り、事業の継続に関与することが求められる場合がある。キーマンが一気に抜ければ、取引先が離れ、現場が混乱し、せっかく買った会社が“骨抜き”になりかねないからだ。
逆に言えば、買収した側は、その間に旧経営陣が抜けても会社が回る仕組みを整えなければならない。さらに、関係が良好なら、一定期間後も継続して事業に関与してもらう道もある。
つまり井川の考えは、合理性に基づいている。T-BOXの価値を最もよく知り、事業を回せる花岡を「使い倒した方が合理的」というわけだ。
中国から戻った花岡。大林から出張中の報告を受けるが、そこで一ツ橋商事、つまり井川から、T-BOXに業務提携の申し入れがあったと聞く。驚きの表情を見せるとともに、「面白そうだな。話だけは聞くと向こうに伝えろ」と指示するのだった。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







