いやぁ、サイズ的に心配だったし、裏側チクチクしない?おなかまわりもイケてるよね?いやぁ、よかったよかった!あー、安心した!

……言語化すればするほどダサい感想になってしまうが、出産を迎えるまで何度も着てくれている妻の姿を見ていたら、あぁ、これはミシンを買って本当によかったかもですね、と思うようになっていった。

 それ以来、わが子が誕生してからは、日に日に大きくなっていく娘のために洋服をサイズアップしたり、妻の着なくなった洋服でワンピースを作ったりと、なるべく家庭に寄り添うミシン生活を心がけている。

 もしあのとき、ツギハギのワンピースを作っていなかったら……。

「妊娠中に旦那が布ばっかりさわっていたので、もう別れます」なんていう、ミシン離婚があったかもしれない。

 家庭とミシンの両立。これ、大事ですね。あと本業。これも大事です。娘の成長だって大事だし、家族の健康も大事。大事にしたいものが増えるのはいいことですよね、なんて言い聞かせながら、今日もミシンを大事に使い続けている。

修学旅行で買った
「APE」のスウェットが……

 そういえば昔、実家にミシンがあった。

 ダメージデニムが流行ったときに自分でどうにかできないかとさわってみたが、何をどうしたらいいのかわからず、心が折れた記憶がある。まわりに聞くと実家にミシンがある人は少なく、そういうものなのかと思っていた。

 高校の修学旅行で九州・福岡へ行ったとき、自分用のお土産として、当時爆発的に流行っていた「APE」のスウェットを買って帰った。

 そもそも「お土産」というテイで洋服を買ってきたことに母親は不服そうだったが、雑誌で見ていた服を買えた満足感でホクホクだった僕は、すぐにその服を着倒して、洗濯に出した。

 スウェットが、伸っび伸びになった。

 なんですかこれは?

 信じたくはないが、どうやら偽物だったらしい。

 伸っび伸びの、だるんだるん。2サイズ以上大きくなったスウェットを見た母親が「修学旅行に行ってまで偽物を買って帰ってきてどうすんの?」と、一字一句として間違っていない正論をぶつけてきて、心底落ち込んだ。「伸びた生地分で巾着が作れるじゃない」――息子の失敗になぜかご機嫌になった母親は、そうも言っていた。