中学受験ぶっちゃけ対談「ゆる受験はごまかし」「順位は最下位まで実名で貼り出す」富永雄輔先生 撮影:加藤昌人

吉祥寺など都内5箇所に教室を持つ人気学習塾「VAMOS」の富永雄輔代表と塾業界30年以上のベテランであり、神奈川県の中学受験国語塾「中学受験PREX」の渋田隆之塾長による全6回の初対談。第5回は子どもの頑張りを認めることを重視する風潮の中で「塾内での順位を知らせないでほしいという考え」への向き合い方について取り上げる。(国語専門塾の中学受験PREX代表、教育コンサルタント・学習アドバイザー 渋田隆之、進学塾VAMOS代表 富永雄輔、 構成/ライター 奥田由意)

「親が傷つきたくないだけ」
本末転倒の順位隠し

富永:最近、「塾に通っている子どもにテストの順位を知らせない、あるいは当人も知りたくない」といった風潮が出てきていると感じています。渋田先生もこのような傾向を感じることはありますか。

渋田:ええ、確かにそういう傾向はあります。特に大手塾などでは保護者からの要望もあって、子どもに順位を伝えることに慎重になっているケースがあります。

 ただ、私はこれは本末転倒だと思いますね。やるべきことをきちんとやっているんだから成績は子どもにきちんと知らせた方がいい。クラスが下がったからといって志望校に受からなくなることはないですし、順位は相対的なものなので、本人の理解が進んでいても、たまたま周りがよくできていれば、下がってしまうこともあります。

富永:私も同感です。うちの塾では5、6年生のテストでは1位から最下位までの順位を実名で貼り出しています。可視化は必要だと思っています。ただし順位でもって「他人を評価するな」、順位をめぐって「喧嘩するな」とも伝えていて、あくまで可視化だけが目的です。

 それでも中には「競争させたくない」という考えの保護者もいるでしょう。私は、第4回の議論と同様に、がんばっている子どもにブレーキをかけるようなことはよくないと思っているのですが。

渋田:そうなんですよ。実は私が思うに、嫌がっているのは保護者なんです。たとえば、あるテストで生徒が最下位だったとして(それだって普通に考えれば、あくまでそのテストに限った一時的、機械的な順位を示すものでしかないのは明らかなのに)、自分の子が「ビリ」という順位で保護者が傷つくのが嫌だから言っているだけだと思います。「子どものため」と言いながら、自分自身が傷つきたくない。

富永:子ども自身はそんなに気にしていないケースも多いですよね。

渋田:はい。むしろ子どもは案外ちゃんと受け入れていることが多い。時には気にしてほしい子がまったく気にしていなかったりもします。「○○ちゃん、すごいなあ」って。いやいや感心している場合じゃなくて、あなたもがんばりなさいよと(笑)。

富永:子どもは基本的に正直で、プラスもマイナスも含めて現実をちゃんと受け止める力を持っている。

渋田:富永先生がなさっているように、「順位が低いからといって見下すな」とちゃんと教育すれば、子どもは「順位がすべてではない」とか「今回だけで決まるわけじゃない」と理解できます。どのみち社会に出たら目に見えない序列はあるわけで、給料の差もつきますし、部下だった人が上司になることもあります。そういう現実を知る機会を奪うのは、子どものためになりません。