医者になろうと勉強を始めた
千尋(中沢元紀)

 浮かない顔をしている者がもうひとりいる。

 千尋(中沢元紀)である。急逝した父・寛(竹野内豊)の代わりに医者になろうと勉強をはじめていた。頭のいい千尋だけれど、法学から医学に急に方向転換はなかなか大変そう。いま勉強して、いつ医者になれるのか。その間、御免与町の医療はどうなるのか。

 屋村(阿部サダヲ)は、シーソーに座って勉強中の千尋にアンパンを渡し(こればっか)、話を聞く。

 ここで「ため息のつきかたが兄貴(嵩のこと)そっくりだな」と屋村は言う。第44回は嵩(北村匠海)が出てこなかったが、このセリフだけでかろうじて嵩の存在がアピールされた。

「わしがやるしかないがです」と千尋が医学の勉強をはじめたことに、血が苦手なのだから無理することはないと屋村は助言する。

「人間、得手、不得手があって当たり前だ。神様がわざわざそう作ったんだからさ」

「どんなにがんばってもこわいものはこわい。やなことはやなんだよ」

「お前はお前の人生を生きろ」

「適当だよ 適当に生きるって決めたんだ。適当は気楽でいいぞ。なあ優等生」

 屋村は、千尋に銀座のパン屋にいたそうだがと聞かれてもそれは無視して、やなことはやなこととして、自分の人生を適当に生きることを説く。よっぽど、銀座のパン屋さんがこわくていやだったのだろうか。

 寛が亡くなり、次郎が海外出張。残されたいい助言のできる大人は屋村のみ。だが、屋村は、いいことを言っているけれど、表現がちょっと屈折しているので、万人には通じにくい。屋村の声もとても聞きやすいのだが……。

「バドジズデジドダー」と笠置シズ子の「ラッパと娘」を口ずさんで帰ってきた屋村をのぶは捕まえて、かんぱん作りを頼むが、「いやなものはやだ」とけんもほろろ。

 もう何年もたっているのに、いまだに朝田パンは屋村の腕でもっているらしく、彼がやってくれないとどうにもならないようで。医者の跡継ぎも大事だが、パン屋の技術を引き継ごうとする者はいないのか。それもまあさておこう。