いっぽうには仲むつまじく笑顔の絶えない家庭があるかと思えば、他方には殺伐とした家庭や、虐待、DVなどで修羅場と化した家庭もある。しかも家庭は好むと好まざるとにかかわらず生活の拠点だ。そのことを考え合わせるなら、家庭こそ個人が最も傷つきやすい場だといえるかもしれない。
内閣府が2022年11月に行った調査によると、長期間にわたってほとんど外出しない状態が続く「ひきこもり」の人数が、15~64歳のおよそ50人に1人にあたる約146万人(推計)にのぼることが明らかになった。正確に比較できるデータがなく、またコロナ禍の影響もあると考えられるものの、急速な増加傾向にあると指摘されている。
いっぽう総務省統計研修所の西文彦は、「労働力調査」の結果をもとに親と同居する壮年未婚者(35~44歳)のうち、基礎的生活条件を親に依存している可能性のある者の数を算出している。
1980~2010年まで10年ごとの推移を見ると、5万人、19万人、28万人、75万人と急速に増加した(なお2016年時点では52万人と減少している。西文彦「親と同居の未婚者の最近の状況」2017年2月)。完全失業率や公的な支援制度などが影響している可能性はあるが、長期的なトレンドとしては増加傾向がうかがえる。

つぎに積極的な家族関係の破壊行為である虐待やDVを見ると、2022年度の児童相談所による児童虐待相談対応件数は21万4843件、2023年に警察が受理したDVの相談や通報の件数は約8万9000件で、いずれも過去最高を記録した。虐待やDVに対する問題意識の高まりといった理由もあるだろうが、増加傾向に歯止めがかからない実態がうかがえる。
これらは性質が異なるものの、共同体としての正常な自治機能が低下している状態という意味では「空洞化」の進行としてとらえられよう。