スマホに夢中で無意識に……「デジタルバブル化」の恐ろしさ

「電車で化粧してる人を見て『ありえない』と思ってたけど、この前スマホ見ながら無意識に鼻の入口をモゾモゾしてたら、友だちに『今、ほじってたよね?』って笑われてショック。自分でも気づかないうちにやってました……」(20代女性)

 これは「デジタルバブル化」と呼ばれる心理現象の一部なのだそうだ。電車の中でスマホに没頭することで、一時的に社会との断絶が発生する。公共空間にありながら透明なカプセルの中にいるが如く、自分だけのプライベートな空間という錯覚を起こすのである。

 恐ろしいのは、このデジタルバブルの中では集中のあまり、自分が何をしているかすら意識しなくなることだ。スマホを見ながら無意識に目ヤニを取る、耳をほじる、ゲップする、爪を噛む……。「電車の中でそういう人、見たことあるある」と思い出さないだろうか。けど逆に、もしかしてあなたも私も、いまこの記事を読んでいる瞬間、何かやらかしていないだろうか?

 公私の境界が溶け出す現代社会。しかもお互い大人なものだから、現代の他者は直接注意する代わりにXで「●●線、隣に座ってるおじさんがスマホでYouTube見ながらハナほじってこっち方面に飛ばして来るの殺意沸く」とつぶやく。あなたも私も、知らぬ間に「ハナホジラー」デビューしていないか、自分を疑ってみる姿勢が必要そうである。

“明文化されない暗黙のルール”を「許容されている」と解釈?

 公共の場でのハナホジ現象は、現代社会の複合的な変容を象徴していると考えられる。

 まず都市化の進展により、人々は日常的に見知らぬ他者に囲まれて生活するようになった。大都市では、隣に座る人と再び遭遇する確率は限りなく低い。この匿名性は「誰も自分を記憶しない」「どうせ赤の他人ばかり」という安心感をもたらし、「旅の恥はかき捨て」とばかりに、従来なら強い社会的抑制がかかる行動への心理的ハードルをぐんと下げている。

 さらに個人主義化の進行により、他者の視線への意識が歴史的に見ても希薄化している。かつてのムラ社会では相互監視が機能していたけれど、現代のスマートな都市生活では見て見ぬふりが美徳とされる場面も多い(代わりにXに吐き出されるわけだが)。「他人に迷惑をかけなければ自由」という価値観の広がりが、直接的な害がない限り、お互いの行動に介入しない文化を生み出している。