鼻をほじる男性写真はイメージです Photo:PIXTA

びろうな話で恐縮だが、ここ数年、電車の中で鼻くそをほじるおじさんが増えている。いや、おじさんだけではない。お兄さんもお姉さんもおばさまもやっている。統計的な数字があるわけではないが、個人的な体感だけではなく、まわりの人に聞いても「増えている」と思っている人が多いのだ。かつて公共の場での「ほじり行為」は、単なるエチケット違反を超えて強力なタブーだったはず。それなのになぜ人前で「ほじってしまう人」が増えているのだろうか?(コラムニスト 河崎環)

電車内で熱心にハナホジ……おじさんだけじゃないショック

 ある平日の早朝、私は最寄駅始発の電車に乗り込んで、いつもの端席に座り、やれやれとバッグからスマホを取り出した。朝6時台の電車はおよそ混雑率50%。誰もがいい感じに自分のことに忙しくて、新聞を読んだりイヤホンしてスマホを眺めたり、他人のことなんか全く気にしていないのがいいところである。

 誰にも見られないのをいいことに、私は鏡になっている自分のスマホカバーを覗きこみ、電車に遅れぬようあわててスッピンで出てきた自分の眉を、こっそり手早くアイブローペンシルで描いた。よし、眉さえ描いときゃどうにかなる。さすがにこの年にもなると自分で見苦しいので眉だけは隠れて描かせていただきますけど、なんせ分別のある大人ですから車内化粧は(もう)いたしませんのよオホホ。

 あとは目的の駅までマスクして誰とも視線を合わさず、TVerで昨日見逃したお笑い番組でも静かに見よっと……と顔を上げたら、車両ドア脇に寄りかかったお兄さんが、スマホで動画を見ながら何か不穏な動きをしておられるのが目に入った。他者の視線を一向に気にせず、彼の指先は鼻の奥を熱心に探検中なのである。

 年のころはアラサー、微量のホストみを含有したローカルリーマンといったところか。まあまあ今のデザインのスーツと革靴、ヘアスタイルだって整髪料で毛先を固めてるから、別にオシャレに関心がないわけでもない。いわゆるアカン人……電車のなかで目を合わせちゃいけない人ってわけでもない。普通のお兄ちゃんだ。

「朝は忙しいから、いろいろな人がいますよね……私だって眉描きましたし……」と、その時はいったん忘れたのだけれど、編集者から「連載、次は電車内のハナホジおじさんについて書くのはどうですか」という連絡がやってきて、ハッとこのお兄ちゃんのことを思い出したのだ。