ベストセラー『「悩まない人」の考え方』著者の木下勝寿氏が「マーカー引きまくり! 絶対読むべき一冊」と絶賛する本がある。『スタートアップ芸人 ── お笑い芸人からニートになった僕が「仲間力」で年商146億円の会社をつくった話』だ。本連載では、起業家たちがこの本から何を学び、どう実践しているのかを掘り下げていく。今回登場するのは、スポーツテック企業「株式会社Focus」の代表取締役・宮口翔氏。『スタートアップ芸人』で描かれる“クレーマー対応”のエピソードに強く共感したという宮口氏に、理不尽なクレームとの向き合い方と、その先にある信頼構築について聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「今すぐ家に来い!」理不尽カスハラ客が“紹介客”を連れてきた理由Photo: Adobe Stock

「逃げない」姿勢が信頼を生む

――『スタートアップ芸人』では、「クレーマーに誠実に対応することで、最終的に応援団長になってもらう」という事例が紹介されています。宮口さんも、似たような経験はありますか?

宮口翔(以下、宮口):Focusを立ち上げる前、外車販売店に勤めていた頃の話なんですが、外車ってどうしても故障が多いんですよね。しかもお客様の多くは富裕層だったので、「今すぐ家に来い」とか「明日までに直せ」といった、かなり強い要求をされることも多かったんです。

営業は私を含めて数人いたんですが、そういった対応に疲れて次第にメンバーが辞めてしまって。マネージャーだった私は、営業から「代わりに行ってください」と頼まれることが増えてきました。

でも、すぐ代わってしまうと本人が育たない。だから私は、「まずは自分で行って、ちゃんと謝ってきなさい」と伝えていました。もちろん現場の営業は「無理です」「もう怒りが収まりません」と、心が折れていることも多かったですが。

クレーマーといっても、こちらに非があるケースもあれば、完全に理不尽なパターンもある。そのどちらにしても、まず誠意を持って向き合う。それが大切だと思っています。

クレーム対応は「逃げない姿勢」と「切り替え力」

――誠実に対応することで、実際に関係が好転したこともあったのでしょうか?

宮口:ありましたね。かなり厳しいクレームを何度も入れてきたお客様がいたんですが、ある日、その方が突然別のお客様を連れて店に来たんです。

開口一番、笑顔で「紹介連れてきたよ、宮口くん~」と言われて、本当に驚きました。

その方は他の販売店でもトラブルを経験されていて、どこも営業が逃げてしまったそうなんです。「でもね、逃げなかったのは君だけだったよ」と言ってくれて。

私はいつも、ちゃんと目を見て謝るようにしていたんです。
平謝りではなく、誠意を持って、落ち度があるならしっかり謝る。
その姿勢を見て信頼してくれたのだと思います。

実は、こういうことって一度や二度じゃないんですよ。ちゃんと向き合って対応すると、紹介をもらえることがある。
逆に、もし逃げていたら、その後の信頼も売上もなかったでしょうね。

「線を引く」ことも誠実さの一部

――怒鳴られることもあったと思いますが、精神的にキツくはなかったですか?

宮口:もちろんしんどいですよ(笑)。クレームはないに越したことはないです。
でも、クレームが起きたときこそ本当の力量が問われる。

Focusでは「3秒で切り替える」という考え方を教えていて、どんなに怒鳴られても「命までは取られない」と思えば、次に進める。それがプロとしての姿勢だと思っています。

ただ、謝るべきことはきちんと謝りますが、全部まとめて謝るのは違うと思っていて。「ここはこちらのミスです。でもこちらは違いますよね」と、しっかり線を引くようにしています。

――相手がどんな人であっても、対応の中で自分の筋を通すという姿勢ですね。

宮口:そうですね。そこを曖昧にしてしまうと、自分の中でも何が正しいかわからなくなってしまうし、相手との信頼関係も長くは続かない。相手がどんな態度であっても、自分の軸を持って対応することが大事だと思います。

――改めて『スタートアップ芸人』を読んで感じたこと、そして読者に伝えたいことがあればお願いします。

宮口:クレームって、確かにしんどい。でも、向き合い方ひとつで信頼に変わることがある。実際、そういう“逆転”って本当にあるんですよ。

『スタートアップ芸人』には、そういう現場感覚がリアルに描かれていて、「ああ、こういうことだよな」と思わされました。

特別なスキルがなくても、誰でも実践できることがたくさん書かれているし、営業だけでなく人間関係全般に通じる話も多い。自分の仕事を見つめ直すきっかけになる一冊だと思いますね。