いかりや それから、人間のほんとうに飾りがない、つまりできれば都会じゃないところ、都会であったらカスバですね、そういうところの人間の生きざまを自分が見ると同時に、その中に自分も身を投じたいというのかな。

 そういうものを死ぬまでにうんと経験してみたい。今英語を習っているんですけど、ほんとうにゴマメの歯ぎしり、四十の手習いで、効率の悪い勉強だけれども、少なくともやらないよりは……。今、英語は国際語だ、そういう言葉でいろいろコミュニケーション取り合える人間と、何か得られると思うんですね。

下からストーンと
引っくり返されるのが好き

悠木 そうすると、長さんみたいな人柄というのは、だれも好感持つと思うのね。特に女なんていうのは。いい年した女優たちがキャアキャア言っているのを見ると。若い清純派はだめだけれども(笑)。

 人とたくさん会いたいという希望には、そういう人柄がにじみ出ているとは思うのね。だけど、それと会ってどうなると思います?

いかりや 会えばさァ、全く自分じゃ想像もしていなかったような、その人のものの考え方とかさァ、人生観とかね。いろいろなもの、これはびっくりするもの……。

悠木 会ってみなきゃわからないしね。

いかりや あるもの、あがめているでしょう。たとえば朝からお灯明あげて、お線香あげてあがめる。日本人がそうしている。これはわかるわけですよ、何となく。こういうものの尊さはわからなくても。

 ところが、これはある国に行ったら石ころでしょう。それが、われわれがあがめているものを石ころと思う人間と触れ合うと、今まで自分の考えてきたことや主張してきたことなんてまるで根も葉もないことでね、冗談じゃない。

悠木 頑張って来たことがね。

いかりや もちろん人生全部ひっくるめて。それを、何か下からストーンと引っくり返されるのが好きなんですよ。

悠木 好きっていうことはね、その瞬間の快感みたいなのは何なんですかね。

いかりや 具体的に言うとつまんなくなっちゃうなあ。何かやっぱり自分がひとつ知り得た驚きとか、喜びとかいうことであって、それを幾つ消化したからという、そういうものじゃない。