いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

「忙しい人」は仕事のできる人?
気づいたら、スケジュール帳が真っ黒になっている。取材、打ち合わせ、原稿の締め切りといった仕事の予定から、交流会やセミナー、子どもの学校や習い事の予定。土日もほぼすべて埋まっている。
よくない兆候である。
以前、スケジュールに空白があると埋めたくなるという困った癖があった。「忙しい人=仕事のできる人」という思い込みからだろうか。
でも私の場合は、忙しくなるほど仕事ができなくなった。Aの仕事をしながらBの仕事の予定を考え、セミナー会場までの行き方を調べ、ときどきダブルブッキングに気づいて各方面に連絡をし……とわちゃわちゃしているのだから当然である。
空白のないスケジュール帳を眺めるのは好きなのだが、動き回って疲れるわりにたいした成果が出ないのであった。
それがよくわかってから「スケジュールは詰め込まない」を合言葉にやっているつもりだ。しかし、油断すると、潮が満ちるかのようにジワジワ予定が埋まっていくことがある。
古代ローマの皇帝でありながらストア哲学者としても知られるマルクス・アウレリウスは、「気晴らしの時間もないほど忙しくするな」と説いている。
気晴らしの時間を持つ
会話の筋道を失うな。
思考をさまよわせるな。
魂を内なる議論に浸らせたり、外に噴出させたりするな。
気晴らしの時間がないほど日々を忙しくするな。(マルクス・アウレリウス『自省録』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より
古代ギリシャで生まれたストア哲学は、「ストイック」の語源となっている。
ストイックというと自分に厳しく、やるべきことを淡々とやるイメージがあるので、「気晴らし」を大切にするとはちょっと意外だ。ローマ皇帝であり哲学者という、ものすごく忙しそうなマルクス・アウレリウスにも気晴らしは必要だったらしい。
いや、だからこそか。やるべきことに邁進している人こそ、リフレッシュしなければ心の平静を保てなくなる。
仕事でも、始終忙しくばたばたしているようでは無駄が多くなるしストレスもたまる。落ち着いて優先順位を考えたり戦略を練ったりすることもできなくなる。
一方で仕事ができる人は、リフレッシュの時間を意識的に取り入れながら余裕を持って働いている。
では、どうすればいいのか。
マルクス・アウレリスは、「もっとシンプルにせよ」と説いているのではないだろうか。
余計なことで悩んで手を広げたり、文句を言ったり、行動を先延ばしにしたりするほど私たちは忙しくなってしまう。もっとシンプルに、一つひとつの行動に注意を向ければ、やるべきことが整理され、気晴らしの時間を持つこともできる。
「気晴らしの時間がないほど日々を忙しくするな」を合言葉に、無駄を省き、一つひとつのことにしっかりと意識を向けて取り組んでいきたい。
(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)