「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

「メンバーが育つ組織」と「辞めていく組織」の決定的な違いとは?Photo: Adobe Stock

優秀な人ほどやめていく職場とは?

 あなたには、自分が属する組織において、成果を出す人が増えているという実感はありますか。

 それとも、優秀な人ほど早く辞めてしまう、そんな状況に悩んでいないでしょうか?

 近年は「心理的安全性」や「働きやすさ」が重視され、過度な負荷やハラスメントをなくす取り組みが進んでいます。それ自体は極めて重要です。

 しかし、安全性の確保が目的化してしまうと、メンバーが離れていき、組織は静かに機能不全に向かいます

 理由はシンプルです。優秀なメンバーほど、「いま自分が成長できているか」に敏感だからです。

 どれだけ環境が快適でも、どれだけ丁寧に扱われても、「この環境にいれば成長できる」と確信できなければ、優秀なメンバーから順に離れていきます。

 つまり、成長機会の有無こそが、組織を“育つ場”にも“辞めていく場”にも変えてしまう決定的な要因なのです。

 では、どうすればメンバーが“育つ組織”をつくることができるのでしょうか?

若いうちの“結果責任”が、
成長の起点をつくる

 成長する組織には、一つの共通点があります。それは、若いうちから小さな単位で“結果責任”を任せる文化があることです。

 ここでいう責任とは、従来のような根性論や無理な負荷のことではありません。重要なのは、自分で判断して、自分でやり切る経験を積ませることです。

 この過程で人は、自分の得意な領域や価値を発揮できるシーン、そして自分らしいスタイルを自然と見つけていきます。

 逆に、仕事の範囲を過度に制限し、「何でも相談して」「困ったら必ず助ける」といったスタンスに寄りすぎると、メンバーは自分の可能性や得意分野を見つけられないまま、時間だけが過ぎていきます。

 従来のように、すべての領域をまんべんなくこなす“ジェネラリスト型”の育成は限界に近づいています。

 苦手領域はAIやツールで補完できる時代だからこそ、組織が注力すべきは“弱点の克服”ではなく、固有の強みを伸ばすための経験機会の提供です。

成長する組織は、
“挑戦の設計図”を持っている

 ここで鍵となるのは、単に責任を任せることではありません。挑戦と安全のバランスをどう設計するかです。

 メンバーの成長を促せる組織は、次の二つを明確に定義しています。

 ・どの失敗を“許容すべきか”の基準(=経験から学べる失敗なのか)
 ・どの失敗は“組織として避けるべきか”の基準(=重大インパクトを招く失敗の線引き)

 この線引きがあることで、メンバーは自分の成長曲線を実感しやすくなり、失敗を恐れずに挑戦できます。成功と失敗の双方が学びへと結びつき、いわば成長の循環が回り始めます。

 一方で、こうした基準を持たない組織では、失敗の扱いが曖昧になり、経験が学びにつながりません。

 結果として、人が育つ土壌が失われてしまいます。

『戦略のデザイン』では、このような「失敗の扱い方」を体系的に整理しています。メンバーが育ち、組織が持続的に強くなる仕組みを築きたい方は、ぜひ本書を手に取ってみてください。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。