「もう1人欲しかったけど…」38年のデータが語る“静かな少子化”とは?
「経済とは、土地と資源の奪い合いである」
ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

「もう1人欲しかったけど…」38年のデータが語る“静かな少子化”とは?Photo: Adobe Stock

意外と知られていない「少子化のリアル」

 あまり知られていませんが、完結出生児数という指標があります。これは結婚からの経過期間が15~19年を数える夫婦について、最終的に何人の子供をもうけたかを平均した数値で、簡単にいえば「既婚女性限定の合計特殊出生率」とされます。

 一方、合計特殊出生率は、その年々の出生率を年齢別に合計して「いま子供を産むと仮定すると一生に何人産むことになるか」を推計した値です。表面的には同じ「一生に産む子供の数」を示しているようで、実際は切り取っている時間軸が異なるため、大きな違いが生まれます。

日本では、どう少子化が進んでいった?

 例えば、日本の戦後史を振り返ると、合計特殊出生率が高度経済成長期に上下し続ける一方、完結出生児数は長期間にわたり2.0台を維持していました。1972年の第6回調査から2002年の第12回調査まで完結出生児数はおおむね2.2前後で推移していたのに対して、合計特殊出生率は1970年代後半から1980年代以降にかけて大きく落ち込んでいます。例えば1980年代に合計特殊出生率が1.7を下回る年が続いたとしても、同世代の女性が結婚を経て二人程度の子供をもうけていたということです。

 ここで何が起こっているのか。注意すべきは、合計特殊出生率が一時的な経済景気や晩婚化の影響を強く受けやすいのに対し、完結出生児数は世代が最終的に何人産んだかを測るため、世代全体が出産を終えるまでの長い期間で確定する指標だという点です。

 つまり、ある年に不況や就職難で出産のタイミングが遅れ、合計特殊出生率が下がったとしても、その後に出産を迎えれば「最終的な子供の数」は二人前後に落ち着くかもしれないということです。合計特殊出生率が現在を切り取る瞬間的な値であるのに対し、完結出生児数は実際に産み終わった数字を示しているため、表面的に似たような指標でも実態が変わってくるわけです。

38年間の変化を読み解くと?

 具体的な事例として、1977年と2015年の家族数調査を比較すると、「二人の子供をもうけた夫婦」の割合は57.0%から54.1%へとわずかに減少したものの、依然として最多です。

 一方、「三人の子供をもうけた夫婦」は23.8%から17.8%へと減少し、「一人の子供をもうけた夫婦」は11.0%から18.6%へと増加しています。さらに「子供をもうけない夫婦」も3.0%から6.2%へと増えており、「もう一人欲しかったが得られなかった」「そもそも結婚しなかった」という事例が積み上がってきたと考えられます。

 このように、既婚女性が産む子供の数はそれほど極端に減っていませんが、少子化が進行する背景には「生涯未婚」や「子供は一人だけ」などの層が徐々に増えている構造が見てとれます。

(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)