一方、グループBは、複雑な情報が増えても60%の人がお買い得車を選ぶことができたといいます。あえて関係のないパズルをさせて、あれこれと考える時間を意図的に奪ったことで、「彼らは不要な情報を捨てて、重要な情報にだけ集中して選択することができた」とダイクスターハウスらは分析しています。

 この実験から、たくさんの情報と時間を与えられると、かえって人は間違った決断をしてしまうということが分かると思います。何かに迷っているとき、どうしても「もう少し考えてから……」と決断を保留しがちです。ですが、次項以降で説明するような“外せないポイント”だけは押さえてあえて短時間で決める、と意識してみましょう。

ジャムの品揃えが豊富すぎると
客は買ってくれなくなる

「選択のパラドックス」という言葉をご存じでしょうか?

 選択肢がないことは不幸だから、選択肢が増えることは歓迎すべきこと。しかし、増えすぎると再び不幸になってしまう――。選択肢が多すぎると、人はかえって二の足を踏み、何もしない(できない)という選択をしてしまうといいます。

 コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガーは、ベストセラーになった、“The Art of Choosing”(邦題『選択の科学』)の中で次の事例を紹介しています。

 スーパーでジャムを販売する際、試食の数が6種類と24種類とでは、売り上げはどう変わるのか?という実験を行いました。6種類のジャムを用意すると、試食に立ち寄ったのはお客の40%、24種類では60%でした。それにもかかわらず、実際にジャムを買ったのは、6種類のときの方が多かったのです。

 こうした傾向を、「決定回避の法則」と「現状維持の法則」と言います。「決定回避の法則」は、選択肢が多すぎると、かえって選べなくなること、「現状維持の法則」は、その結果、馴染みのあるものを選んでしまうことです。

 ジャムの選択肢が多すぎて選べなくなるのは「決定回避の法則」によるもので、その結果、「面倒だから馴染みのある6種類から選ぶ」という現状維持を選択してしまうのです。