不安な夏迎える米経済、三つのリスク関税政策が不透明な中で「設備投資は非常に慎重に行うつもりだ」と話すウルトラソースの経営者ジョン・スター氏
Photo: Katie Currid for WSJ

 米経済は2023年と24年に警告されていた景気後退予想を無事乗り越えたが、再び不安な夏を迎えている。

 5月の米雇用統計によると、非農業部門就業者数は前月比13万9000人増加し、雇用の伸びは堅調だった。失業率は過去1年間、4%~4.2%の狭い範囲で推移する。

 だが水面下では亀裂が生じている。通商政策が絶えず変化するため、企業は将来の計画を立てるのが困難だと警告し、そうした環境が採用と投資の凍結につながっている。

 雇用の伸び鈍化と住宅市場の冷え込みを背景に、政策の不透明感が広がっており、米連邦準備制度理事会(FRB)は当局者が新たなインフレリスクを懸念しているため、昨年に比べて利下げへの慎重姿勢を強めている。

 ミズーリ州カンザスシティーで食肉加工技術の輸入・製造を手がけるウルトラソース社の経営者ジョン・スター氏は、関税の見通しが明確になるまで、採用や設備投資は控えるつもりだと述べた。

 同社は10%関税が発効した4月9日より前に欧州のサプライヤーに2000万ドル(約29億円))相当の注文を出しており、製品の完成を待っている。関税が同水準のままなら200万ドルの課税に直面する。

「どうやって支払えばよいのか」と同社を引き継いだ3代目オーナーのスター氏は言う。「1年分の利益が吹き飛ぶかもしれない」

 景気が再び、完全に後退するとは言わないまでも下降するかどうかは、米国の消費者が最新のカーブボールにどう対応するかにかかっている。今回は米国の通商関係を再構築し、輸入品への依存を引き下げようとするドナルド・トランプ大統領の意向に起因している。同氏はこの数カ月間、大規模な関税引き上げを次々と発表し、時に激化させたり、暫定的に解決したりと大きく揺れ動いている。

「この先の状況はトランプ氏の次の決断にかかっている。だが率直に言ってトランプ氏でさえ次の行動を把握していない」。米ビーコン・エコノミクスの創業パートナー、クリストファー・ソーンバーグ氏はこう指摘する。「だからどこに向かっているかを知るのはほぼ不可能だ」

 大方のエコノミストは、米国経済が景気後退入りするのは、消費が低迷する時だという見方で一致する。

「消費者の行動がうまくいっている限り、この世界は変わらない」。5万8000戸の集合住宅を所有するテキサス州ヒューストンの不動産開発会社カムデン・プロパティー・トラストのリック・カンポ最高経営責任者(CEO)はそう述べた。

 エコノミストの大半は、景気後退の見込みは年初に比べると高いが、対中関税が計145%まで引き上げられた4月から5月初めにかけてよりは低下しているとみている。

 米国は先月、対中関税の引き上げ幅を30%まで減らすことで合意。その他の大半の国は10%の関税引き上げに直面する。より高率の関税が課される数十カ国に対しては7月初めまで発動が保留される。