どうやって部下とチームを育てればいいのか? 多くのリーダー・管理職が悩んでいます。パワハラのそしりを受けないように、そして、部下の主体性を損ねるリスクを避けるために、一方的に「指示・教示」するスタイルを避ける傾向が強まっています。そして、言葉を選び、トーンに配慮し、そっと「アドバイス」するスタイルを採用する人が増えていますが、それも思ったような効果を得られず悩んでいるのです。そんな管理職の悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏は、「どんなに丁寧なアドバイスも、部下否定にすぎない」と、その原因を指摘。そのうえで、心理学・カウンセリングの知見を踏まえながら、部下の自発的な成長を促すコミュニケーション・スキルを解説したのが、『優れたリーダーはアドバイスしない』(ダイヤモンド社)という書籍です。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、「アドバイス」することなく、部下とチームを成長へと導くマネジメント手法を紹介してまいります。

部下の「言い訳」に、付き合うべきか否か?
ミスを犯した部下と向き合うとき、あなたは最初にどんな声がけをするでしょうか?
最初からズバッと「部下ができていないこと」を指摘する人はあまりいないかもしれませんが、部下が言い訳めいたことを口にしたりすると、「それ、どういうこと?」と怒りを滲ませたり、「ちょっと待って(それは違うんじゃない?)」などとたしなめたくなるのが普通ではないでしょうか。
しかし、私は、そんなときでも、まずは部下の言い訳を責めるスタンスに立つのではなく、「そうか、それは仕方なかったね」などと受け入れるようにしたほうがよいと考えています。その方が、その後のミーティングを実りあるものにしやすいからです。
相手のシステムに溶け込んでいく「ジョイニング」という技法
実は、これはカウンセリングの技法です。
「家族療法・システムズアプローチ」というカウンセリングの流派があるのですが、そこで大切にされている「ジョイニング」という技法なのです。
「家族療法・システムズアプローチ」では、来談者個人の内面にアプローチするのではなく、来談者が属する家族や会社組織などの集団を一つのシステムとして捉え、そのシステムにおける「相互作用」や「コミュニケーション」を変えていくというアプローチを取ります。
そして、相談室で行われるカウンセリング自体も一つのシステムとして捉え、カウンセラーと来談者の「相互作用」や「コミュニケーション」を変えていき、それが来談者の属する集団へと伝播していくという考え方で、カウンセリングを進めていくのです。
そこで大切にされているのが、「ジョイニング」という技法です。
「ジョイニング」とは、カウンセラーが来談者のシステムに溶け込んでいき、その一部になることを指します。そのために、相手が大切にしている「価値観」や「雰囲気」、「コミュニケーションのパターン」や「成員の相互関係」などを察知し、いち早くそれに合わせていくのです。
もうお気づきでしょう。
部下の言い訳に対して、「そうか、それは仕方なかったね」と受け入れる発言をするのは、この「ジョイニング」に当たるのです。
部下が言い訳をしたのに乗っかって、「そういうことはあるよね。仕方ないよ」と賛意、共感を示すことによって、部下のシステムに入っていったわけです。
部下と敵対してはならない
カウンセリングを行う際には、まずは相手から「教えてください」「サポートしてください」と思ってもらう「相談的枠組」が必須となります。
そのためには、来談者とカウンセラーが「敵対」しては話になりません。「信頼関係」もできていないうちから相手の問題を指摘しても、相手はそれを受け容れずに「反発」を強めるだけで、カウンセリングにならないのです。
それは上司と部下の関係も同じです。
部下に「できてないこと」があったとしても、いきなりそれを指摘しても「敵対」するだけ。それよりも、部下のシステムのなかに入れてもらう、「ジョイニング」を優先したほうがいいのです。
もちろん、「ジョイニング」は、カウンセリングや教育の「目的」ではなく、「前提条件」にすぎません。
だから、「ジョイニング」に終始しているようでは、部下の「成長」を促すことは不可能です。
だから、上司である場合には、部下の言い訳などに乗っかることで、「ジョイニング」に成功したら、「今回のことを振り返りたいけど、いいかな?」などと提案して、部下の了解のもと「ソリューション=解決」へと話題を切り替えていく必要があるでしょう。
(この記事は、『優れたリーダーはアドバイスしない』の一部を抜粋・編集したものです)
企業研修講師、公認心理師
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』や『すごい傾聴』(ともにダイヤモンド社)など著作49冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に公認心理師・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童生徒・保護者などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。