権力を振りかざすだけでは
カネも情報も得られない

 大阪弁は「笑い」とつながるが、調査の現場にも笑いが生まれるという。「『机開けていいですか』と言うと『いやです』と言われるので、『(机)開けるで~』と笑いを入れながら調査します」。

 大阪弁で言うと返事をする前に開けているが、拒否はしてないことになる。早く打ち解けて早く本音を引き出し、相手の隠すことをどこまで掴むか、些細な情報をすくい上げるのに大阪弁は「武器」となる。納税者との関係は権力を抜きにした信頼関係であり、1つのビジネスをどうやって続けていくか一緒に考えていくビジネスパートナーとしての横の関係である。

「どうしたらよろし?」

「契約をこう変えたら?こういう取引やったら、いらん税金払わんでいいですよ。今度からそないしなはれ」

 というふうに、納税者に喜んでもらうという。

 税務の現場の大阪弁の機能は、商談における大阪弁の機能と似ている。筆者は商談で使われる大阪弁の機能として、「話を途切らせない継続機能」、「角を立てない喧嘩防止機能」、「自分を鼓舞する機能」、「仲間意識を共有する機能」、「利益につながるコミュニケーション機能」の5つを挙げるのだが、これらは税務職員にとっても大切なことである。

 税務職員は、話を切って帰らせたり相手を怒らせてしまうと、情報をもらえないどころか、納税もしてもらえない。ゆえに人間関係を築き情報を引き出すために商売人の共通言語である方言を駆使して同じビジネスの土俵に立ち、交渉したり相談にのりながら納税をさせていく点で、商売人と同じであるといえよう。その点において税務の大阪弁は「自分を鼓舞する機能」を除いて商談の大阪弁同様の機能を持つと同時に、「情報収集機能」「コンサルタント機能」を持つといえるだろう。