会社やチームのリーダーとして、いま、求められているリーダーとはなんだろうか? 責任をとること? 部下やメンバーの話をよく聞いて、仲を深めること?
『リーダーの言語化 「あいまいな思考」を「伝わる言葉」にする方法』の著者である木暮太一氏は、リーダーの本来の役割は、どこに向かって進むべきかを「言葉で明確に伝えること」だと話す。本記事では、木暮氏に「言語化」について教えてもらう。

新任女性リーダーが陥る「傾聴・コーチング頼み」の落とし穴
この春からリーダーに抜擢された方も多くいらっしゃると思います。
「これからはメンバーをしっかりサポートして成果を上げよう」と意気込んでいるかもしれません。そしてもしかしたら、マネジメントの難しさに直面しているかもしれません。
リーダーになりたての方が着目するのが「聴く力」です。
「リーダーは傾聴力とコーチングスキルが大切」といわれているため、「とにかくメンバーの話をよく聞いて、質問で気づきを促そう」と頑張っています。ぼくは多くの企業さんにサポートに入っていますが、女性リーダーにその傾向が特に強いと感じます。
親身になってメンバーの話に耳を傾け、「どう思う?」「なぜそう感じるの?」と質問を重ね、答えを本人に気づかせようとする。
一見素晴らしいアプローチに見えますが、実際の現場では「話は聞いてくれるけど、結局何をしたいのかよくわからない」「質問ばかりで疲れる」というメンバーの声も多く聞こえてきます。
なぜ「傾聴・コーチング頼み」では限界があるのか
「傾聴力とコーチングスキルさえあれば大丈夫」と考えるのは、少し危険です。これらのスキルは確かに重要ですが、傾聴だけではチームを導くことはできません。
というのは「聞くこと」「質問すること」を重視しすぎて、自分の考えや方向性を明確に伝えなくなっているからです。「部下の自主性を尊重したい」「押し付けはよくない」という思いから、自分の意見や指示を曖昧にしてしまうのです。
また、コーチングの手法をそのまま職場に持ち込んで、何でもかんでも質問で解決しようとしてしまう傾向もあります。「どうしたらいいと思う?」「君はどう考える?」という質問が多くなると、メンバーは「そんなこと聞かれてもわからない。ちゃんと教えてほしい」と不満を抱くこともあります。
「課題とは、理想(ゴール)と現状のギャップのこと」とよく言われますね。そして課題を解決するとは、そのギャップを埋めることです。ということは、自分のチームの「ゴール」と「現状」が明確になっていなければ、そもそも課題解決なんてできないということなんです。
ではその「ゴール」は誰が設定するのでしょうか?
メンバー各自が決めることではありません。
チームのゴールは、リーダーが決めるものです。
メンバーから意見を募ることもあるかもしれません。でも最終的に決めるのはリーダーの役割です。リーダーが明確に把握し、メンバーに対して明確に示さなければいけないんです。
傾聴とコーチングはマネジメント手法の一つにすぎません。これらを重視しすぎると、「みんなの意見を聞いて、全員が納得できるゴールにしよう」という思考になってしまう可能性すらあります。これではリーダーが板挟みになってしまいます。
傾聴力・コーチングスキルは大事です。しかし、何でもいいからとにかく相手の話を聞けばいいわけではありません。大事なのは「何を聞くか」「何を引き出すか」です。
リーダー自身が自分の考えや感情、チームの方向性を明確に言葉にできる力があってこそ、傾聴もコーチングも真の威力を発揮するのです。