これまで、リーダーといえば「責任をとること」が役割だと思われてきた。しかし、『リーダーの言語化 「あいまいな思考」を「伝わる言葉」にする方法』の著者である木暮太一氏は、リーダーの本来の役割は、どこに向かって進むべきかを「言葉で明確に伝えること」だと話す。このたび木暮氏に、リーダーが身につけるべき言語化スキルについて、シーン別に対処法や解決策を教えてもらった。(取材・構成/山本奈緒子)

ダメなリーダーは部下に「何でも話して」と言う。優秀なリーダーは“意見を言えない部下”に何と言う?Photo: Adobe Stock

言語化できない部下には2タイプいる

――部下は、思っていることがあっても上手く言葉にしてリーダーに伝えられなかったりします。それを上手く言語化させて引き出していくのも、リーダーが身につけたいと思っているスキルかなと思うのですが、どうでしょう?

木暮太一(以下、木暮):これは、部下が何を言えないか、なんですよね。“言えない”ということにもいろいろあって。

まず、「自分が何をしたらいいのか全然分かりません」という部下もいます。「仕事をしなければいけないんだけど何をしたら有効なんでしょう?」と、そもそも論でノーアイディアだから言語化ができないという人ですね。

一方で、言いたいことはあるんだけど気まずくて言えない、ということもあります。「本当はこうじゃない」と思っていたり、「本当は自分のせいじゃない」と思っているけど雰囲気的にそれが言えない、というタイプです。

――たしかに“言語化できない”ケースには大きくこの2タイプがある気がします。

木暮:まず「何をしたらいいか分からない」ですが、このタイプは別に言葉を引き出す必要はありません何をすべきかはリーダーが指示することですから。

たとえば部下がAプランをやっているとして、「本当はAプランじゃなくBプランをやらなくてはいけないのに……」という状況だったとします。その場合は、部下が自ら間違いに気付くことが大事なのではなくて、リーダーが「AプランじゃなくてBプランをやって」と指示することが大事なんです。

――あっ、それでいいんですね!?

部下には「その場で何をすべきか」が伝わればいい

木暮:これもスポーツと重ねてみるとよく分かります。サッカーの試合で、フォワードが「今日の試合で僕は何をしたらいいのか分からないです」と言ったなら、それは監督が指示するだけの話なんですよ。その指示にもとづいて上手く動くのが各選手の役割であって、もし選手たちがその上手な動き方も分からないなら、監督はそこも指示しなければならない。それがリーダーの役割かなと思います。

――前回(記事:「ハラスメントを働くリーダーの多くがやっている“ニュアンス指示”とは?」)、「メンバーが3分以内に始められることを指示する」とおっしゃっていましたが、メンバーがすぐ動けるような明確な指示を出すことが、リーダーの役割なんですよね。

木暮:言葉を選ばずに言うと、メンバーは仕事の意義とか仕事の全体像みたいなものを理解しておく必要は必ずしもなくて、正しい行動ができればそれでいいんです。極論ですけど。

――たしかに、全体像を知っておいてもらおうとして指示が壮大であいまいになってしまう、というのはよく起こっていることだと思います。

木暮:「経営者目線で動け」みたいなことをよく言われますけど、本来それは経営者が考えるべきことであって、メンバーは目の前に来たボールを蹴るのが仕事なんですよね。だから全体像がどうなっているかではなくて、その場で何をすればいいかということだけ伝わっていればいいんです。

ふつうの人が“月間1憶円の営業成績”を出していたワケ

――リーダーも、そこの割り切りが必要ということですね。

木暮:この割り切りは、僕が以前にいたリクルートでは顕著でした。リクルート社が発行していた雑誌に、月間の無料クーポンマガジン『ホットペッパー』(※現在は休刊)がありましたが、ここの営業ですごい人は、月間1憶円を売り上げていたんですよ。

――月間でですか!

木暮:しかも、売っている枠は決して高くないんですよ。それをものすごいたくさん売るんです。もちろんリピートが多いですから毎月新規のお客さんを獲得しているわけではないですけど、それでも1憶円売るというのはすごいことですよね。

ただ、この“すごい人”というのは決して営業能力がすごいわけではなくて。上から言われたことを忠実にそのままリピートしているだけなんです。

余談ですが、ぼくが在籍していたころのホットペッパーの営業の人たちは、3年間の期間限定契約社員が多かったんです。このメンバーは第二新卒や20代のローキャリアの人たちをメインに採用していて、それはつまり、3年間頑張って実力をつけて次に生かしてください、という発想だったわけです。

だから多くは基本的に営業をやったことがないし、前の会社で上手くやれず辞めてここへ来た、という人も少なくなかった。それでも、ホットペッパーで月間1憶円を売るんです。

ではなぜ、大ベテランでもめちゃくちゃ営業の才能があるわけでもない彼らがそんなに売ることができるかというと、それは、リーダーがやるべきことを明確に指示しているからなんです。

「ホットペッパーとは……」などのビジョンや理念を浸透させるより、その代わりに、やるべきことが明確に記された資料を渡して、「これを暗記して、誰に対しても同じように喋りなさい」と指示する結果的にこのほうが圧倒的に売れるんです。

――言語化のお手本のようなやり方ですね。

木暮:だから売ることができるんですけど、これまた悲しい話があって、1憶円売れたことで勘違いしてしまう人もいるんですよ。「私は営業で成功したから」と独立したり転職したりして、今度は「指示書」がないところに行く。そうすると、あれは指示書があったから売ることができたんだ、という現実に気付くんですね。そしてまた戻ってくることも……。

目の前の山が一体何で、そこに達するために何をしなければいけないかをリーダーが明確に指示さえすればチームの成績は上がる、その分かりやすい例だと思います。