
三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第62回は、「エンタメとしての数学」について考える。
「全ての数は面白い」というジョーク
東京大学現役合格に必要な数学力を鍛えるための特別講師として招かれた柳鉄之助は、「数の暗黙知」を獲得するため、LINE上で素因数分解の早解き競争をする。
素因数分解とは、「27=33」「120=23×3×5」のように、正の整数を素数の積で表すことだ。単純な計算にすぎないのだが、コンピューター上の秘密情報のやり取りの際に暗号として使われることもある重要な概念だ。
柳がやっていたような素因数分解の早解き競争を、実際にできるアプリがある。QuizKnockがリリースしたwallprime(ワルプライム)というゲームだ。画面に表示される数字が書かれた壁(=“wall”)を素因数分解していく(≒“わる”)ゲームだ。
現在はサービスが終了しているが、リリースされたころは自分の周りでもちょっとしたブームになっていた。なお現在は、教育版の「WALLPRIME! for Education」が提供されている。
このように、一見難しそうに見える数学だが、エンタメとして楽しむ手段はいくらかある。なんなら、数字そのものがエンタメの対象だ。
「全ての数は面白い」ことを数学的に証明できる、とする論法がある。
まず初めに、「面白くない数」があると仮定する。すると、「面白くない最小の数」が存在することになる。だが、「面白くない最小の数」は「面白くない最小の数」という「面白い性質」を持っている。これは、最初に「面白くない数」が存在することに矛盾する。よって、全ての数は面白い。
かみ砕いて説明するとこのようになる。この証明自体は数学ジョークの一種なのだが、この証明に用いられている証明方法は「背理法」といい、高校数学で学習する。
文系でも「面白い」と思える“数の不思議”

そのほかにも「面白い数」に関しては、インドの数学者シュリニヴァーサ・ラマヌジャンと、イギリスの数学者ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディの逸話が有名だ。
ある日、ハーディが「自分が乗ったタクシーのナンバープレートが1729という『面白くない数』だった」とラマヌジャンに話すと、ラマヌジャンは即座に「1729は、2通りの『2つの正の立方数の和』で表せる最小の自然数だ(1729 = 13 + 123 = 93 + 103)」と指摘したという話がある。
このエピソードはラマヌジャンの数学における卓越性を象徴する逸話として語られることが多いが、「渋滞で暇な時に、周りの車のナンバープレートの数字を計算して10を作る」といった遊びは経験したことがある人も多いだろう。
アイデア次第では、算数や数学の遊びの幅は無限大だ。
数学のことをよく知らない文系の私でも、「これは面白い!」と思えるようなテーマはいくつもある。私は暇な時にウィキペディアをネットサーフィンするのが趣味なのだが、中には面白いトピックがいくつもある。もちろん、その信ぴょう性に関しては十分注意した方がいいのだが。
例えば、「0.999…」というページでは、0.999…という循環小数の性質について事細かに解説されている。そもそもこの項目のページが存在すること自体が面白いのだが、0.999…が1と等しいという一見直感に反する事実に関して、一般に広がっている誤解とともに解説されている。
このページは、ウィキペディア上の百科事典として優れたページであることを示す「秀逸な記事」に選ばれている。
このほかにも、ウィキペディアのパロディ版「アンサイクロペディア」に掲載されている「1=2の証明」もまた、読み応えがある記事だ。もちろん、ジョークを含むこれらのトピックは厳密な数学を学んだ先に得られる面白さとは違ったものだろう。だが、数学への苦手意識を取り払うきっかけにはなるかもしれない。

