吉野家と松屋、店内を見れば一発でわかる「大きな違い」Photo:Diamond

吉野家で注文するのが、恥ずかしいという人はいるだろうか。今多くの牛丼チェーンで普及しているタブレットによる注文には、客自身も気づきにくい、隠れた秘密があった。(イトモス研究所所長 小倉健一)

常連客でも注文は無意識のストレス

 牛丼チェーンの代表格として長年親しまれてきた吉野家は、かつて注文から支払いまですべて店員が対応する形式を貫いていた。

 店員の声がけ、対面の注文、現金手渡しによる支払いといった接点を重視した運営は、顧客との距離を縮める手段とされ、満足度の向上を意図したものだった。実際に牛丼をつゆだくにするかどうか、生玉子を追加するかどうかといった注文を、店員との短いやりとりの中で交わす場面に、常連客は安心感や親しみを感じてきた。

 牛丼屋に通う客層にとって、注文時に恥ずかしさを感じるという感覚は乏しく、自分の欲求に忠実であることが当然のように振る舞っている。

 特盛にして増量し、玉子を2個追加し、ポテトサラダやみそ汁を組み合わせるといった注文も遠慮なくできる、という認識が表面的には共有されている。

 ところが、マーケティングの実証研究(後述)が顧客の意外な傾向を明らかにした。遠慮なく注文するような客層ですら、知らず知らずのうちに周囲の視線や人間関係を意識し、注文の量や内容を調整しているというのだ。
 特に他者と連れ立って来店した場面では、無意識のうちに判断が変容し、実際に望んでいた組み合わせを控える行動が統計的に確認されている。

 現在では、客の判断を妨げる障壁は技術によって大きく取り除かれている。

 吉野家は全国規模でタブレットによる注文システムを導入し、注文時の対面コミュニケーションを不要とする運営形態へと移行している。

 客は自席からメニューを選択し、画面を操作するだけで牛丼の量やトッピング、セット内容を自在にカスタマイズできるようになった。肉だく、ねぎだく、生玉子の追加など、かつては口頭での注文が気恥ずかしかった要望も、指先一つで可能となった。