
「愛国の鑑(かがみ)」だったことを
咎められたのぶは……?
のぶはまた真に受けて試験を受ける。
筆記試験に、街で取材する実地試験。物怖じしないのぶは取材に向いてそうで街の人たちと話が弾む。取材していて、相手から逆質問されて話が脱線してしまうパターンは取材あるあるだと筆者はにやにやして見た。
それから、面接。筆記試験は優秀だったと好感触。これはうまくいくかと思いきや、そう簡単ではなかった。
学生時代、のぶが高知新報に載ったことを持ち出され、「愛国の鑑(かがみ)」であったことを咎められる。軍国主義の思想を持っていたことが採用するうえで引っかかったのだ。
「思想はそう簡単には変わらんですよね」と面接官の霧島(野村万蔵)は心配する。当時の記事を書いた記者から言質をとったうえでの指摘だった。さすが記者。記事を鵜呑みにしないでちゃんと追加取材をしている。
教師を辞めたのは、進駐軍から軍国主義者としてマークされたからではないかと疑念まで持たれるのぶ。正直に、間違った教育を子どもにしたことに責任を感じて辞めたと答える。
しかも、のぶは「アメリカの民主主義がそんなにすばらしいものか私にはまだわかりません」と正直に言ってしまう(このとき今田美桜は目がゆらいでいて、のぶがまだ迷っていることがわかる)ので、「ほら やっぱり」となる。でも、引いた視点で見れば、この場合、のぶの考えが適切だろう。
そんなに簡単に、朝起きたら軍国主義から民主主義が正しく変わっている世界なんて、ヘンだ。どっちが正しいという論点ではなく、以前、違う価値観を持っていた者たちがそんなに容易に考えを変えることができるのかという問題である。
のぶを責める人は、戦中、軍国主義に反対を表明し、行動に出ていたのか。例えば、朝ドラ絶対王者『おしん』(83年度)ではおしんが「(前略)戦争が終わったら、戦争中は自分も黙ってたくせに、自分ひとりは戦争に反対してきたみたいに、馬鹿な戦争だったとか間違った戦争だったとか偉そうなこと言って(後略)」と反省している。