
東海林役の津田健次郎
声優ならではの言葉の力
霧島は戦中、記者として軍国主義に反対し、苦労したのかもしれない。「過去は拭えん」というのは、日本がやってきたことをなかったことにできないという彼なりの正義感だろうか。
高知新報は進駐軍からマークされているから、愛国主義者だったのぶを採用できないと考える霧島を、東海林が止める。のぶはいまの日本に生きる女性たちの代表だと主張するのだ。
「自分自身を墨で塗りつぶされたがです!」
うさ子(志田彩良)や黒井先生(瀧内公美)や国防婦人会の民江(池津祥子)たち……みんな銃後の守りを果たそうとひたむきに頑張ってきた。彼女たちは終戦を迎えて、どんな気持ちでいることだろうか。
女性たちに限ったことではなく、男性だって、あれだけ日本の勝利を盲信して、国民一丸となって戦おうと主張していた人たちは……。
「世の中も 俺もあんたらも変わらんといかんがじゃないですか」
おしんのようにどストレートに言わないが、東海林は事なかれ主義を批判する。彼が言う「変わる」は思想を変えるのではなく、「今度こそ間違えんように まわりに流されず、自分の目で見極め 自分の頭で考え ひっくり返らん確かなものをつかみたいがです」とのぶが言うように考え行動することだろう。
東海林役の津田健次郎は声優でもあるので、言葉に力がある。座間先生役の山寺宏一もそうだったけれど、強烈な主張のあるセリフを言うと、単語のひとつひとつが粒立って、意味もはっきり伝わってくる。
印象的なのは「墨で塗りつぶされた」というフレーズは第13週で何度も印象的に使われていることだ。
これまで当然のように考えられていたことを有無を言わさず黒く塗りつぶす社会。信じていたことを急に価値のないものとされたら支柱をなくして立てなくなってしまうだろう。例えば、急に持っていたお金の価値がゼロになったら立ち行かないわけで……。
東海林の熱意によって、のぶはあっさりと採用が決まる。
「(人手が足りないので)猫の手として採用する」とのぶに手を差し伸べる東海林。
でもそのあと、後輩の若清水(倉悠貴)に「俺が責任持つ」と啖呵切ったものの「どうしよう〜」と弱音を吐く。こういうキャラは人気が出そう。