〈イスラエル・イランが停戦合意〉プーチンがイランを助けなかった納得の理由、中東情勢は混迷へ【佐藤優】2025年6月19日、イスラエル南部の拠点都市ベエルシェバで、イランから発射されたミサイルの直撃を受けたソロカ病院を訪問するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相 Photo:EPA=JIJI

米国がイランの核施設を空爆したことで一気に緊迫した中東情勢は、12日間の戦闘を経て停戦を迎えました。今回の戦闘の結果が、中東情勢に与える影響とは――。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)

懸案されてきた
イランの核兵器開発

 米国がイランの核施設を空爆したことで一気に緊迫した中東情勢は、12日間の戦闘を経て停戦を迎えました。イスラエルと米国がイランに対して大勝利を収めた、というのが現状です。

 停戦の合意は、トランプ米大統領がSNSに投稿したため明らかになりました。トランプ氏らしい、外交常識に反する発表でした。通常この種の合意は、当事者である米国、イラン、イスラエル3国の政府が同時に発表するものです。フライングをすれば、合意がほごにされる可能性があるからです。

 イスラエルのネタニヤフ首相は、停戦合意後のビデオ演説で「われわれは歴史的な勝利を収めた」と述べ、トランプ氏に対しては「前例のない方法で協力してくれた」と感謝を表明しました。

 この演説は額面通りにネタニヤフ氏の認識を示したもので、イスラエルの政治エリートのほぼ全員に共通していると思われます。イスラエルは、30年来の懸案だったイランの核兵器開発に、これまでとは質的にも量的にも異なるレベルで歯止めをかけることに成功したからです。

 イスラエルが抱いてきた危機感は、理解できます。原爆を作るのに必要なウランの濃縮度は90%で、原発なら5%です。イランは60%まで濃縮を進めているのですから、平和利用だという主張は受け入れられません。

 イランの最高指導者ハメネイ師も停戦合意の後、国営テレビで演説し、「イスラエルと米国に勝利した」と主張しましたが、こちらはあくまで国内向けでした。

 イスラエルによるイランへの軍事作戦が始まったのは、6月13日。当初は距離を置く姿勢を示していたトランプ氏ですが、21日になって直接攻撃に踏み切りました。