米ロ交渉でウクライナは「釣り銭」のごとき扱い、トランプ革命がもたらす「新帝国主義」のルール【佐藤優】トランプ米大統領(左)とロシアのプーチン大統領が、ロシアとウクライナの停戦交渉を進めている Photo:AFP=JIJI

民主主義や人権といった価値観の一致は考慮されず、国際政治のゲームのルールが新帝国主義に転換した国際社会。トランプ革命がもたらす新帝国主義の中で、戦争を避けるためには――。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)

トランプ外交は革命
大国が仕切る新しい世界

 トランプ米大統領が行っている外交の本質は、革命です。最近、日米両国でこの事実を正面から見据える論者が出てきました。私はこれを歓迎します。

 バイデン政権下で駐中国大使、ブッシュ(子)政権下でNATO(北大西洋条約機構)大使を歴任したニコラス・バーンズ氏の談話を3月21日の「朝日新聞デジタル」が紹介しています。

「大局的に議論すれば、これ(トランプ氏の行動)は、米国の外交政策を再構築するための戦術的な動きなのか、それとも革命[revolution]なのかということだ」

「私はこれが革命だと考えるようになっている」

「NATOの同盟国と対立しながら北朝鮮やイランに同調して投票したり、ロシアの侵略に立ち向かわなかったり、同盟国の領土を奪うと脅したりすることは、何かが根本的に変わったことを示している。修復不可能かもしれない、同盟国との信頼関係の崩壊が起きている」

 トランプ氏の国家安全保障チームのメンバーは、「モンロー主義2.0」について語っています。

〈それは、米国、中国、ロシア、そしておそらくサウジアラビアが、それぞれ独自の勢力圏に対する責任を負う世界を想定している〉(3月21日「朝日新聞デジタル」)

 同様の論を唱える日本の識者は、外務審議官や在カナダ大使を歴任した西田恒夫氏です。西田氏は現役時代、「悪のサンタ」の一人として悪名高く、安倍晋三元首相から蛇蝎のごとく嫌われていました。「悪のサンタ」とは、原田親仁・元ロシア大使、松田邦紀・前ウクライナ大使、西田氏の3人を指し、いずれも名字に「田」が付くためにそう呼ばれていたのです。

 悪名高いけれども頭はいい西田氏は、こう述べています。

〈米国は「仲介者」ではなく、ロシアの側に立って、一緒にウクライナを責め立てています。停戦や和平協議を巡る国際法や国際慣行から外れた動きです。しかし、トランプ米大統領はプーチン氏と同様に「大国が仕切ることは政治的には許される」と考えているのでしょう。2人は今後、ウクライナのゼレンスキー大統領に最大限の圧力をかけて、ウクライナの主張を根こそぎ否定したうえで停戦に持ち込むつもりだとみています〉(3月18日「朝日新聞デジタル」)

 西田氏の分析と評価は正しいといえます。トランプ氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領を停戦ゲームのプレーヤーと見なしていません。「俺とプーチンで決めることにゼレンスキーさん、あんたは従えばいいんだ。つべこべ言わずに教えた通りにやれ!」というのが、トランプ氏の対ウクライナ政策です。